03 カエルと音楽祭の秘密 1

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 家に帰ってプリントをわたすと、おかあさんが笑った。 「そうか、タケルもついにかー」 「キチクだよ、キチク」 「来年は笑って見られるんだから、いいじゃない」  そんなおかあさんも、上坂小学校のサドンデスかえるのうた体験者。  っていうか、あれを見にくるひとたちはほとんどが体験者なんじゃないのかなあ。そうして、あのおそろしいかえるのうたをやっている子どもたちを、見物するためにあつまっているにちがいないのだ。  まったく、気楽なもんだよ。  ランドセルを置いてもどってくると、台所の椅子でタマさんが寝ていた。 「ただいま、タマさん」  ぼくがあいさつすると、薄目をあけてこっちを見る。そうして、クワーと大きなアクビをして、椅子から降りた。  茶色い毛に黒色が巻きついたみたいなしっぽをぼくの足にからませて、タマさんがこっちに身体をこすりつける。  下を見ると、タマさんの黄色い目とぶつかった。  まんなかにある、黒と緑をまぜたみたいなところが動いて、なにかをうったえる。  ぼくがうなずくと、タマさんはすっと離れていった。  冷蔵庫からジュースを取り出してコップに入れて、ポテトチップスのちいさい袋を持って、自分の部屋に行く。  タマさんは、ぼくの部屋に置いてある猫用のベッドには入らず、机の上に乗って待っていた。 「塩辛いものは食べちゃダメだって、おとうさん言ってたよ?」 「そんなもんは知らないよ。アタシは猫であって猫じゃないんだ」  最近のタマさんは、ポテトチップスがお気に入りらしい。  犬や猫には、人間が食べるものは身体に悪いから食べさせちゃダメだっていうけど、タマさんときたらおかまいなしなんだ。  たしかにタマさんは猫又かもしれないけど、見たところ猫だし、マンガに出てくる猫娘みたいに人間の女の子になるわけじゃない。  だったら食べるのはよくないんじゃないかなって思ってるんだけど、味をしめちゃったみたい。  お供えのポテチ、なくなっているのはタマさんのしわざじゃないかなと、最近ぼくはうたがっている。  そういえば、犬は「遠吠え」っていうのがあるけど、猫はそういうのあるのかな。あんまり聞いたことない。ケンカの声はよく聞くけど。  わからないことは、訊けばいい。  ぼくは、ポテチを食べおわって顔を洗っているタマさんに、質問した。 「猫はうたったりするの?」 「しなくもないが、それがどうかしたのかい?」 「音楽祭があるんだ。ユーウツだよ」 「なんだい、去年は楽しそうに練習してたじゃないか」 「そんなの、むかしの話だよ」 「昔、ねえ」  タマさんが笑う。むー、すごく失礼だ。  ただ楽しく歌っていればよかったときとおなじにしないでもらいたい。  三年生のかえるのうたが、こんなにもおそろしいものだったなんて、知らなかったんだから。 「そもそも、あれは梅雨時期の雨乞いが起源だろう?」 「なにそれ、知らないよ?」 「いつだったか忘れちまったけどね。空梅雨(からつゆ)だった年に、カエルのかわりに鳴こうってんで、その歌をうたったのさ。そしたら見事に雨が降ったもんだから、定着しちまったってわけさね」 「へー、そうなんだ」  おもしろいネタだから、忘れないようにノートに書いておこう。  ぼくは秘密ノートを取り出して、「おんがくさいのはじまりについて」と題名を書く。  それにしたって、歌をうたえば雨が降るものなのかな。  もしもそれが本当なら、野外コンサートはいつも雨になっちゃうじゃないか。
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