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ニャーオ
高く、猫の声が響きわたった。
大きく聞こえたあと、重なるみたいにつぎつぎに猫の声が聞こえてくる。
一匹だけじゃない、たくさんの猫の声だ。
ニャオニャオ、ニャゴニャゴ。
あのへんな声を消しちゃうぐらい、猫ねこネコねこ猫。
ふと、ぼくの足にふんわりやわらかいものが触れた。目をやると、細長い猫のしっぽ。
茶色い毛と、黒い毛。
二本のしっぽが揺れている。
「……タマさん?」
「まったく、なにやってるんだい」
「タマさん!?」
「ついてきな」
三毛猫のくちから、ニャオウという声が聞こえたかと思えば、なぜか人間の言葉になって頭のなかに響く。
ついてこいと言った猫が前を歩くんだけど、しっぽがふたつあった。
茶色と黒色のしっぽが、ゆらゆら揺れて、交差する。
茶色いしっぽに、黒色がからまっているみたいに見えて、ぼくはつぶやいた。
「トルネードだ」
「急ぎな、長居は無用だよ」
「わ、わかったよ」
立ち止まって振り返った猫の身体には、茶色の三角と黒い丸の模様があった。
あんなに歩きにくいと思っていた地面は、いつのまにか固い土にもどっていた。ちらちらと日射しが落ちてきて、耳には風でそよぐ葉っぱの音も聞こえてくる。
前のほうが明るくなっていて、ぼくはすこしだけスピードをあげて、そこへ足を踏み入れた。
そこは、神社の境内だった。本殿の裏がわの、あまり陽が当たらない場所。
幼稚園のころはかくれんぼをしてあそんでいたけど、小学校にあがってからは、そんなこともなくなって、すっかり忘れていた場所だ。
ニャーと猫の声がして振り返ると、四匹の猫がいた。
ぼくの足下にいたタマさんがニャオンと鳴くと、それを合図にしてどこかへ走っていく。
ぼくは訊いた。
「タマさんって、ボスネコってやつだったの?」
「……言うに事欠いて、まずそれを訊くのかいおまえは」
ニャウニャウとタマさんが鳴くけど、そうはいっても、ぼくだってこまるよ。
タマさんのことについて調べようとは思ったけど、まさかタマさんがこんなに変わった猫だとは思ってなかったんだ。ソウテイガイってやつだよ。
うーむと考えるぼくの前で、タマさんのしっぽが不機嫌そうに揺れる。
それは見慣れた二色のしっぽで、さっき見た、色分けされた二本のしっぽはどこにも見当たらない。
「タマさんのしっぽは、どっちが本物なの?」
「さてね。アタシはアタシで、ここにいるだけだからね」
「すごい、かっこいいね、それ」
「……というか、おまえは驚くってことをしないのかい」
「タマさんもお話できたんだなーって、うれしいほうが大きいし。タマさんはタマさんだから、べつに怖くもないし」
それに、なんとなくだけど、こういうのははじめてじゃない気がするんだ。
ぼくがそう言うと、タマさんは「そうだろうね」と、耳をぺたりと伏せた。
「おまえはケンキだし、無自覚に首をつっこむものだから、見ているこちらがヒヤヒヤするよ」
「けんき?」
見る鬼と書いて、けんきと読むらしい。なんと、タマさんは漢字も知っていた。
鬼っていっても、それは人間じゃないものぜんぶをさしていて、ようするにお化けとかユーレイとか、そういうやつ。
つまりアレだ。霊感があるってことかな?
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