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「なにを呑気な物言いをしているかね」
「ちがうの?」
「あれだけはっきり見聞きしておいて、感覚だけで済ませるんじゃないよ」
フーと毛を逆立てて、タマさんが怒った。
「さっきだって、あのままじゃあんた、魂を抜かれるところだったじゃないか」
「そうだ。あれって、なに? 神社の裏から入ったから、神さまが怒ったのかと思ってたんだけど」
もっといえば、タマさんをビコウするという悪いことをしていたから、バチがあたったのかなと思っている。
だけどタマさんは、またフーフー怒って言った。
タマさんが通ったのは、裏の道。
この場合の「裏」は、単なる表と裏じゃなくて、人間が住んでる世界と、そうじゃない世界のこと。
ぼくたちが住んでいるのが表で、ぼくが見たようなお化けや妖怪が住んでいるのが裏。
ふたつの世界は、表裏一体。
裏の世界に行くには、正しい道を通らないといけなくて。
ぼくは、その「正しい道」を通らずに行こうとしたから、悪いものにつかまっちゃいそうになったらしい。
あのへんな声はぜんぶ、ちゃんとした裏の世界に行けなかったモノたちなんだって。
ふたつの世界の狭間に引っかかって、動けなくなっちゃって。ぼくみたいに、うっかり迷いこんだ人間や動物の魂を食べている。
どこにも行けないから、おなかがすくのかなあ。
「ねえ、タマさん。あの人たちに、お供えとかできないの? おなかすいてるんだよね?」
「……おまえって子は、どうして、そう」
だって、おなかがすくのはたいへんだ。
寝坊して朝ごはんをちゃんと食べられなかった日は、給食までにすっごくおなかがすくんだ。グーグー鳴って、教室で聞こえたらどうしようってぐらい。
隣の席にいるカミルくんにはばっちり聞こえたみたいで、かわいそうな子を見るみたいな顔をされた。ぼくはちょっと哀しかったよ。
「だから、えーと、いまなにかあったかなあ」
カバンを探してみるけど、ビスケットがひとつだけだった。ポケットに入れて叩いても、量は増えずに粉々になるだけだって、八才にもなればわかる。
タマさんは下を向いて、頭を振った。やれやれってかんじ。
そして、人間みたいに後ろ肢で立ち上がって、ひょこひょこ歩いていく。バランスをとるみたいに、しっぽが二本になっていた。
本で読んだことがある。しっぽがふたつに分かれている猫。
たしか、猫又っていうんだ。
ニャーー!
タマさんの声が、一帯に響いた。
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