02 タマさんと神社の秘密 2

4/5
前へ
/78ページ
次へ
「なにを呑気な物言いをしているかね」 「ちがうの?」 「あれだけはっきり見聞きしておいて、感覚だけで済ませるんじゃないよ」  フーと毛を逆立てて、タマさんが怒った。 「さっきだって、あのままじゃあんた、魂を抜かれるところだったじゃないか」 「そうだ。あれって、なに? 神社の裏から入ったから、神さまが怒ったのかと思ってたんだけど」  もっといえば、タマさんをビコウするという悪いことをしていたから、バチがあたったのかなと思っている。  だけどタマさんは、またフーフー怒って言った。  タマさんが通ったのは、裏の道。  この場合の「裏」は、単なる表と裏じゃなくて、人間が住んでる世界と、そうじゃない世界のこと。  ぼくたちが住んでいるのが表で、ぼくが見たようなお化けや妖怪が住んでいるのが裏。  ふたつの世界は、表裏一体。  裏の世界に行くには、正しい道を通らないといけなくて。  ぼくは、その「正しい道」を通らずに行こうとしたから、悪いものにつかまっちゃいそうになったらしい。  あのへんな声はぜんぶ、ちゃんとした裏の世界に行けなかったモノたちなんだって。  ふたつの世界の狭間(はざま)に引っかかって、動けなくなっちゃって。ぼくみたいに、うっかり迷いこんだ人間や動物の魂を食べている。  どこにも行けないから、おなかがすくのかなあ。 「ねえ、タマさん。あの人たちに、お供えとかできないの? おなかすいてるんだよね?」 「……おまえって子は、どうして、そう」  だって、おなかがすくのはたいへんだ。  寝坊して朝ごはんをちゃんと食べられなかった日は、給食までにすっごくおなかがすくんだ。グーグー鳴って、教室で聞こえたらどうしようってぐらい。  隣の席にいるカミルくんにはばっちり聞こえたみたいで、かわいそうな子を見るみたいな顔をされた。ぼくはちょっと哀しかったよ。 「だから、えーと、いまなにかあったかなあ」  カバンを探してみるけど、ビスケットがひとつだけだった。ポケットに入れて叩いても、量は増えずに粉々になるだけだって、八才にもなればわかる。  タマさんは下を向いて、頭を振った。やれやれってかんじ。  そして、人間みたいに後ろ肢で立ち上がって、ひょこひょこ歩いていく。バランスをとるみたいに、しっぽが二本になっていた。  本で読んだことがある。しっぽがふたつに分かれている猫。  たしか、猫又(ねこまた)っていうんだ。  ニャーー!  タマさんの声が、一帯に響いた。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加