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prologue
路面を噛む音をさせてタクシーが通り過ぎた。すべての音を呑み込むように、街を静かに小糠雨が包んでいる。濡れそぼるクリスマスイルミネーションが、今宵は見えない星の瞬きを真似るように点滅を繰り返す。
──あいにくの天気になったね。
傘を傾けると、夜空に灯る街灯の中に無数の白い線が見える。
──空には空の事情というものがあるのよ。
赤い傘の下で、君はほんのりと笑う。朱の唇から白い歯が覗く。
──雨は夜空のカタルシス。そんな日は気がすむまで泣かせればいいの。そしたらまた、けろりと晴れる。だって空は、気まぐれな乙女だから。
君はしたり顔で頷いた。
──どこかの誰かさんみたいに?
あっ……と、指を向けてよそっぽを向いた君。
──なに?
──なんでもなかった。
どうやら君は聞こえないふりを通したらしい。
──それよりもあたし、お腹ペコペコ。気合入れてお昼抜いたんだから。どんな料理が出てくるか、もう楽しみで。
イブの浮き立つような気配に覆われた街は、雨に煙りながらふたりを包んでいた。
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