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「いらっしゃいませー」
畑と青城が事件現場近くの牛乃屋に入ると、店員が二人働いていた。パートらしい年配の女性と、若く痩せた男。
畑と青城は頷き合うと、男に近く。
「すみません、李浩然さんですか?」
「ハイ……」
いきなり問いかけてきた畑に、男は目を見開き、震えるように頷く。
「すみませんが、少し、お話伺えますか。私は、愛知県警捜査一課の畑です」
「同じく、青城です」
二人が警察手帳を見せ――、李が走り出した。店の奥へと。
「お前は裏口に回れ!」
咄嗟に青城にそう指示を出し、畑はカウンターの内側に入り、李を追う。
パートの女性は、一体何なのか理解できず、あっ気にとられ――
「あ……、いらっしゃいませ」
畑と青城の次に入ってきた客に、ただ対応したのだった……。
狭い店の裏側は、素早く動けることはできず、畑は直ぐに李を捕まえれるとこまで近づく。
「ア゙ー! ギャアー!!!!」
李は喚き散らしながら、手当たり次第投げつけたり、床に落としたりしていて――積み上げてあった持ち帰り用プラスチック皿の雪崩が起こったり――したが、それは思いの外小規模で、畑は落ち着いて李に近づき、腕を取って捩じ伏せた。
「李浩然、公務執行妨害で逮捕する!」
手錠をかける。カチャリと閉める音が、畑に何とも言えない快感をもたらす。
その時――、その間を崩すかの様にインターホンが鳴った。
畑はまさかと思いつつ、手錠に繋いだ李を引っ張りながら裏口を開けると、青城が立っていた。
「……お前なぁ、なんで律儀に鳴らしてんだよ」
「裏口の開け方よくわからなくて……このボタン押したら、自動で開くのかなと」
「手動だ。鍵開いてたから、普通に入れるぞ」
畑が苛立ち混じりのため息を吐く。
「あ……、すみません」
怒られてるとわかった青城は、少ししょんぼりとした。
「ったく。李を公務執行妨害で逮捕したから、署でゆっくり話聞くぞ」
二人は李浩然を連れて、署へと急ぐ。
畑と青城は取調室で李と向かい合って座った。
「何故、逃げようとしたんだ?」
畑は李に直球で質問する。
「ニホンゴ、ワカラナイネ」
困った返答に、畑が青城に目配せする。
青城が中国語で李に話しかけ、李は観念して供述しだした。
青城は頷きながら、様々な質問を続け、李との会話が続いて……続いていく……。
「おい! 何話してるか、説明してくれ」
畑は、長い中国語の遣り取りにうんざりしていた。自分が質問した言葉を青城が通訳してくれるだけだと思っていたのに、かれこれ10分程、日本語説明もなく、話が進んでいた。
「先輩、李浩然は白です」
「は? どういうことだ?」
日本語で話してくれたと思ったら、突然の結果発表で、畑はついていけない。
「不法滞在をしてて、それで捕まると思って逃げようとしたと。殺人はしてないし、若葉早苗とは学校以来会ってないと、言っています」
「おいおい、それをお前は信じるのか」
「はい。僕は李の言葉を信じたいですし、彼がやったという証拠もありませんし――あ!」
「どうした?」
「証拠と言えば、陳への贈り物の指紋鑑定まだでしたよね? もし、指紋残ってたら、照合してわかりますよ。今から取りにいきましょう!」
珍しく息巻いて自分から行動しだした青城に、畑は笑顔で応じた。
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