名(めい)刑事の迷(めい)捜査――名古屋(愛知県警)の窓ぎわ族刑事による、迷捜査

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 翌朝。愛知県警察本部、刑事部、捜査一課、特務室。 「なぁ、俺たちも混ぜてもらわないか?」  ずんぐりで鋭い目つきの刑事、畑大介(はただいすけ)は、後輩刑事をつつく。 「僕は、この仕事をやりますので、大丈夫です」  畑とは対照的に、スマートでくりりとした目の刑事、青城辰広(あおきたつひろ)は、机の上の英文書に目を戻した。 「俺は、やるぞ。今年こそ、刑事らしい仕事をするって決めたんだ」 「……」  青城と行くのをあきらめ、畑は一人で捜査一課課長に直談判しに向かう。  歳は35才。刑事の窓ぎわ族は、もう卒業したかった。  強面で腕力があるというだけで捜査一課に配属されたが、使えない畑は、特務室送りにされた。特務室はイコール雑務部屋。日常は資料整理をしたり、事件に関係する監視カメラ映像を見続けたりしている。 ((もっと、こう、ドラマの刑事みたいなことしたいよ……青城はそう思わないみたいだけど))  10才下の窓ぎわ族の後輩刑事を、課長に行く前にもう一度見る。事件に関する英文書の翻訳ばかりやってる青城は、机にかじりつき、見向きもしない。  意を決して、畑は課長に、殺人事件の捜査班に加えてもらえるようにお願いしに行く。 「いいよ」 「え?」  課長から簡単にOKが出て、畑はたじろいだ。 「青城と一緒にやってみてくれ。今回は、ちょっと中国人が絡んでるからな」 「あ、そういう……」  国際派の青城は、外国人絡みの問題でよく使われている。 「今回良い結果出せたら、今後も捜査に加えてやるぞ。やりたいなら、二人で頑張ってみろ」 「はい。ありがとうございます」  畑は、課長に礼をして、青城のとこに急いで戻る。 「おい、今から捜査行くぞ。課長が、俺とお前の二人でやれと、指示出した。中国人絡みだから、お前の力が欲しいってさ」 「わかりましたよ」  少し不貞腐れた顔して、青城は書類をかたずけ、出かける支度をした。  捜査の命を受けた畑は、青城と現場に急行する。 「窓ぎわ族が何の用だ?」  先に来ていた、一線で活躍している刑事が畑と青城に気づいて、ジロリと睨んだ。 「課長に捜査するように言われたんです。国際派の青城と一緒にと」  圧に負けじと、姿勢を正して畑は答える。 「なるほどな。ま、邪魔すんじゃねぇぞ」  刑事は、畑の肩を叩くと、現場から去っていこうとした。 「あ、あの。情報、教えてもらえませんか」  畑は咄嗟に、手帳とペンを取り出す。中国人絡みということ以外、全く知らないのだ。 「忙しいんだ。今から色々聞き込み行くんだ」  取りつく島もなく、刑事は行ってしまった。 「先輩、情報収集しに、本部、戻りましょ?」 「それがいいかもしれないけど、刑事の捜査って、やっぱ、現場だろ?」 「はぁ」  畑の言葉を理解できないという顔を、青城はあからさまにした。 「ほら、現場来ないとわからないこともあるだろ?」 「捜査本部に行かなかったせいで、わからないことだらけですけど?」 「おい、おまっ――」  青城の口ごたえに切れそうになった畑は、怪しい女を目にした。  捜査関係者でない、記者でもなさそうな、女が、突っ立って何か必至に持っているノートに書き込んでいる。  見るからに風貌が怪しい。ボサボサ頭に、眼鏡、擦りきれた靴とジーンズに、子供っぽいトレンチコートと、ぐるぐる巻きのマフラー。 「なぁ、あの女、聞き込みしてこい」  畑は目であの女を示す。 「え、何で、僕が?」 「捜査してこい。お前の方が、女受けする顔だし。俺が行ったら、怖がられるだけだ。 できれば、喫茶店にでも連れてって話聞け。 俺は、隠れて観察する」 「わかりましたよ……」  ため息をついて、青城は女へと向かう。  こうして、窓ぎわ刑事の捜査は始まった。
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