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「井良秀子を取り調べたんだって?」
井良と別れた後、畑と青城は捜査本部に向かったが、本部に来ていた他の刑事にからかいぎみにそう聞かれた。
井良のことは、捜査班の中では知っているのが当たり前で、知らない刑事がよく犠牲になるらしい。
((よく犠牲って、犠牲に遭わせて陰で笑うのかよ、性格悪いな))
畑は食って掛かりそうになったが、こんなことで暴走して職を失くすのも馬鹿らしいので、逆に笑顔を取り繕う。
「いやぁ、大変な目に遭いましたよ。わからないことばかりなので、教えて下さい。今回の事件の内容もまだわかってなくて……教えて頂けますか?」
「は? わからないって、本部会議に顔出さなかったお前らが悪いんだろ」
畑をからかった刑事は、そう捨てぱちに言うと、さっさと部屋を出て行った。
畑は悔しげに地団駄を踏み、それを冷静な眼差しで青城は見やる。
「先輩、本部会議出なかった僕達が悪いです。ボードに書かれた情報や資料見てみましょう」
青城は、やれやれといった感じで畑を見てから、ホワイトボードへと向かう。
畑は、やり場のない怒りを押さえ込むと、大きく深呼吸し、青城の側に並ぶ。
「ガイシャと第一発見者は、井良のノートに書いてあった通りだな」
「そうですね……被害者、若葉早苗。第一発見者、陳陽光。これだけは、井良のノート通りですね」
畑と青城は井良ワールドに翻弄されつつも、井良ノートはしっかり確認できていた。
ただ、被害者と第一発見者の名前以外の情報は、妄想で埋められていたようだ。
「だから、先に本部で確認するべきだったんですよ。どこぞの先輩が『刑事の捜査は現場だ』なんて言って突っ走るから」
「悪かったな」
先輩をなじる後輩に見向きもせずに謝ると、畑はホワイトボードの内容を手帳に写していく。
二人は気づいてないが、このホワイトボードの情報は、既に報道されてる内容でもあり、刑事以外も周知の内容となっていた。
<ホワイトボードの情報>
被害者
若葉早苗28才、日本語学校講師
死因、頭部損傷。頭に何かで殴られたような傷
荒らされた跡無し
鞄、財布中身有り、窃盗の形跡無し
第一発見者
陳陽光29才、被害者の内縁の夫、中華料理店「黄光」の店長
死亡推定時刻、1月30日午後11時頃
発見時刻、1月31日午前1時半
…………
「よし、じゃぁ、この第一発見者のとこ行くぞ」
そう言った畑を、青城は何か言いたげに見つめる。
「ん? 何だ?」
「ちゃんと、考えてます?」
「考えてるさ。第一発見者を疑えって、よく言うし、ここには、それしか名前が出てないし」
「考えてないじゃないですか。陳のとこは、他の刑事が行ってるから、僕らが行っても無駄足です。若葉や陳の交遊関係も洗ってみたらどうです? 現場周囲の聞き込みも大事ですよ? 目撃者がいるかもしれませんし」
「すごいな、お前……。
うーん。現場で聞き込み……と、言うことは、行くべきは現場だな。なんだ、結局現場じゃないか。現場戻るぞ」
畑が駆け出す。
「はいはい……」
青城はため息をついてついていく。
((無駄だ。捜査に役立たずの僕らが動いても、時間の、税金の無駄だ。与えられた自分ができる作業のみをしてた方がいいのに))
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