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本部に戻ってきた畑と青城は、集まりだしている会議室の後方からひっそりと入り、一番後ろに腰かけた。他の刑事に目をつけられていじられるのを避ける為に。
『な、青城、何も報告するなよ。時計のことしゃべらなくていいからな』
パイプ椅子を軋ませながら、畑が青城にひそひそと話しかける。
『え、何でっすか。星に繋がる重要な証拠っすよ?』
『他の刑事を出し抜きたいんだ』
『はぁ。情報提供して、他の刑事に早く挙げてもらった方が良いと思うっすけどね……』
会議で報告された内容は、陳に不都合なものばかりで――切れる陳とまともに話せた捜査員はいないようだった。
<報告内容>
・事件当時の有力な目撃情報無し
・凶器となった物発見されず
・被害者は恨みを買うような人物ではなかった
・事件当時の陳のアリバイ証明するもの無し
・陳は切れやすく危ない性格
・被害者と陳は内縁になってから半年。結婚を若葉の両親が反対してたため、籍を入れれなかった
・被害者の友人の証言によると、被害者は父親からDV を受けていて、陳を紹介した時には、酷く荒れていた模様
…………
「他に報告はないか?」
進行役が、会議室を見渡す。
『このままだと、陳が疑われたままっすね』
青城は目だけ畑に向けた。
『ガイシャの父親も怪しいみたいだけどな』
進行役は、私語をする二人に注目した。
「そこで話してる後ろの二人、何か言いたいことがあるなら、言ってください」
「はい、すみません。実は、事件に繋がるであろう手掛かりを入手しました」
青城が立ち上がり、しゃべりだす。
畑は、話すな! と必至で目配せをするが、青城はそれを無視する。
「実は、黄光に不審な荷物が事件前日に届いています。その中身は置時計だったのですが――」
「おい、そのどこが事件に繋がるんだ?」
他の刑事が半笑い気味にヤジを飛ばす。
「――その、置時計というのは、中国では死等悪い意味があり、殺害予告ともとれます。よって、意味を知っていて荷物を送ってきた中国人が怪しいと、僕は思います」
青城はそう言いきって、着席した。その時――
「会議中すみません」
女性警官が一人入ってきた。
「この中で、カピバラとアルパカと呼ばれてる方はいますか? カピバラとアルパカの刑事と話がしたいと、井良秀子という者から電話がきていますが」
女性警官が真剣な顔でそう尋ねると、会議室は笑いで包まれた。
畑と青城は恥ずかしさで顔が真っ赤になり、自分のことだと名乗ることもできない。けど――
「おい、おみゃぁらのことだろ? 現場で仲良く話してたもんなぁ」
「あの女のとこに早く行っこやー」
「井良と絡んでるんじゃぁ、結局、さっきの話も信じられんな」
皆、畑と青城のことだとわかっていた。二人が井良と関わってるという噂は、捜査関係者の間で広まっていた。
二人はそそくさと会議室を出て、電話へと向かう。
時計の送り主の話はうやむやになり、結果的に畑が他の刑事を出し抜ける可能性が残ったが、会議室を笑いで満たした呼び出しは、今後語り継がれる汚点となったのだった。
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