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「もしもし……」
畑が嫌々電話に出た。
「あ、カピバラさんですか? 陳さんの中国人の友達聞いてきましたよー」
「あ、ありがとう。けど、県警本部にかけてくるな。スマホの連絡先教えただろ?」
「だってぇ、連絡しても出てくれなくてぇ……。私、もう寝たかったんですよぅ」
「留守番電話に入れときゃよかっただろ……」
「あのピーっていう音、怖いから、聞きたくないんです」
「アソウデスカ……。で、中国人の友人のこと、教えてくれ」
畑はペンと手帳を取り出す。
「それがですね、陳さんの中国人の友達は、無罪です」
「はあ?」
畑の声が裏返る。
「陳さんの中国人の友達は皆、春節で中国帰ってて、1週間程前からいなくて、そろそろ戻ってくる頃みたいです」
「そうかよ……ありがとうな。他には何か聞いたか?」
「そうですねぇ……。あ、傘と扇子も送られてきたことがあるそうです」
「傘と扇子?」
畑が発したその言葉に、青城はぴんと来た。
「先輩、ちょっといいですか」
青城が受話器を奪う。
「あの、それが送られてきたのはいつか、わかりますか」
「あ、アルパカさんね? 早苗さんと暮らしだした翌日に届いたそうで、結婚祝いと書かれた箱の中に入ってたとかで、酷い嫌がらせだと陳さんが……」
「わかりました。井良さん、ありがとうございました」
青城は電話を切った。
「先輩、これ、ガイシャと親しい人物の犯行の可能性がありますよ」
「ん? 陳か父親ってことか?」
「そうではなく、ガイシャの友人関係です」
愚鈍な先輩の解答を真面目に否定する。
「どういうことだ」
「傘と扇子は別れを意味するんです。それが、ガイシャと陳が内縁になった翌日に、結婚祝いとして届いたらしいです……」
「と、いうことは、二人を別れさせたいやつか!」
気づいた畑がパチンと指を鳴らした。
「そいうことになりますね。ガイシャに恋愛感情を抱き、かつ中国文化に詳しい人物じゃないでしょうか」
「やるな、さすが国際人、青城。じゃぁ明日は、ガイシャの友人関係調べて、その中の中国人を洗うぞ!」
やる気に満ちて畑は青城の肩を叩く。が、青城の顔はすぐれない。
「……そうですね」
「どうした?」
高揚した気持ちは一気に失せ、先輩は後輩を心配する。
「できれば、中国人が犯人でなければいいなぁって……」
「え?」
「僕、人種差別による冤罪を無くしたいと思って、警官になったんです」
「それは、偉いけど、冤罪と闘うなら、弁護士になれば良かったんじゃないのか?」
「人種差別をしない警官に、なりたかったんです。誰でも助けてあげれるヒーローに憧れてたんです」
10年程前、ニューヨークで助けてくれた警官を青城は思い出す。
「そうか」
((俺は映画やドラマの警官に憧れただけだったな))
畑は崇高な後輩の志望動機に、恥ずかしくなり、顔を掻くのだった。
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