名(めい)刑事の迷(めい)捜査――名古屋(愛知県警)の窓ぎわ族刑事による、迷捜査

9/14
前へ
/14ページ
次へ
 翌朝。畑と青城は、若葉早苗の勤め先だった語学学校を訪れた。交友関係を洗うためだ。 「警察ですけど、すみません、竹中さん、いらっしゃいますか?」  畑は、受付の女性に警察手帳を見せる。 「少々お待ち下さい」  女性が奥のデスクで作業している男性に声をかけにいく。 「何で、竹中って人、呼んだんすか?」  待ってる間に、青城が畑にそう問いかける。 「おまっ……。本気でそう言ってるのか? 井良ノートにあっただろ。陳と仲良かった先生、竹中」  畑は、井良ノートをメモした部分を青城に見せつけた。 「ああ、そう言えば……」 「……お前、メモ、とってないのか? 基本だぞ」  あきれた表情になる畑。 「だって、井良さんの情報って、信憑性低いじゃないですか」  青城は口を尖らせて、肩をすくめる。 「まぁ、そうだけど、どんな情報が事件に繋がるかわからないからな。 で、井良情報通り、竹中が陳と仲良かったなら、ガイシャとも仲良かったはず。だから、俺は竹中を呼んだんだ」 「そうですね。私は、若葉とも仲良かったですよ」  優しく少し哀しげな声が響く。  青城に説明していた畑は、声の主に顔を向け、聞かれていたことに戸惑った。 「竹中直也です。お話、できることがあれば、協力しますよ?」  さわやかなサラリーマン風の竹中は、板についた笑顔で、刑事に名刺を差し出す。 「あ、ご協力、ありがとうございます。愛知県警捜査一課の畑です」 「青城です」  あたふたしながら畑は名刺を受け取り、手帳を掲げる。それに青城が続いて掲げた。 「で、聞きたいことは何ですか?」  日本語がわからない生徒に話すことが多いせいか、ゆっくりとした、聞き心地が良いトーンが竹中の口から滑らかに出てくる。 「あ……、えっと……、若葉早苗さんと仲良かった中国人って、知ってますか」  竹中がまとうおっとりとした春風のような雰囲気に、畑は一瞬飲み込まれ、テンポを崩した。 「そうですねぇ…………。若葉は、皆に慕われていましたので、仲良かった中国人は結構いたと思いますよ」 「そうですか……。その中でも、若葉さんに好意を抱いてた人がいたとか、わかりますか?」 「そうですねぇ………。あ……! ちょっと、気になる人はいますよ」  竹中は奥に行くと、分厚いファイルを持ってきてめくりだし、とある頁を見せた。 「この人は、学校に来なくなったんですけど、若葉は、ちょくちょく連絡とって会ってました」  ずらりと生徒名とその情報が書かれた内の、一つを竹中は指差す。 「李浩然(ハオラン)か」  畑は、その名前と住所等の情報を書き込んでいく。 「李浩然は、若葉が住んでたアパートの近くの牛乃屋(うしのや)で働いてて、若葉はよくそこに行き、会ってたみたいですよ」 「そうか。勤務先に行ってみるのもありかもな……。  あ、ご協力、ありがとうございます」  畑はメモを終えると、竹中に礼をし、怪しい人物の元へと急ぐ。  目指すは、現場近くの牛丼チェーン店、牛乃屋。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加