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翌朝。畑と青城は、若葉早苗の勤め先だった語学学校を訪れた。交友関係を洗うためだ。
「警察ですけど、すみません、竹中さん、いらっしゃいますか?」
畑は、受付の女性に警察手帳を見せる。
「少々お待ち下さい」
女性が奥のデスクで作業している男性に声をかけにいく。
「何で、竹中って人、呼んだんすか?」
待ってる間に、青城が畑にそう問いかける。
「おまっ……。本気でそう言ってるのか? 井良ノートにあっただろ。陳と仲良かった先生、竹中」
畑は、井良ノートをメモした部分を青城に見せつけた。
「ああ、そう言えば……」
「……お前、メモ、とってないのか? 基本だぞ」
あきれた表情になる畑。
「だって、井良さんの情報って、信憑性低いじゃないですか」
青城は口を尖らせて、肩をすくめる。
「まぁ、そうだけど、どんな情報が事件に繋がるかわからないからな。
で、井良情報通り、竹中が陳と仲良かったなら、ガイシャとも仲良かったはず。だから、俺は竹中を呼んだんだ」
「そうですね。私は、若葉とも仲良かったですよ」
優しく少し哀しげな声が響く。
青城に説明していた畑は、声の主に顔を向け、聞かれていたことに戸惑った。
「竹中直也です。お話、できることがあれば、協力しますよ?」
さわやかなサラリーマン風の竹中は、板についた笑顔で、刑事に名刺を差し出す。
「あ、ご協力、ありがとうございます。愛知県警捜査一課の畑です」
「青城です」
あたふたしながら畑は名刺を受け取り、手帳を掲げる。それに青城が続いて掲げた。
「で、聞きたいことは何ですか?」
日本語がわからない生徒に話すことが多いせいか、ゆっくりとした、聞き心地が良いトーンが竹中の口から滑らかに出てくる。
「あ……、えっと……、若葉早苗さんと仲良かった中国人って、知ってますか」
竹中がまとうおっとりとした春風のような雰囲気に、畑は一瞬飲み込まれ、テンポを崩した。
「そうですねぇ…………。若葉は、皆に慕われていましたので、仲良かった中国人は結構いたと思いますよ」
「そうですか……。その中でも、若葉さんに好意を抱いてた人がいたとか、わかりますか?」
「そうですねぇ………。あ……! ちょっと、気になる人はいますよ」
竹中は奥に行くと、分厚いファイルを持ってきてめくりだし、とある頁を見せた。
「この人は、学校に来なくなったんですけど、若葉は、ちょくちょく連絡とって会ってました」
ずらりと生徒名とその情報が書かれた内の、一つを竹中は指差す。
「李浩然か」
畑は、その名前と住所等の情報を書き込んでいく。
「李浩然は、若葉が住んでたアパートの近くの牛乃屋で働いてて、若葉はよくそこに行き、会ってたみたいですよ」
「そうか。勤務先に行ってみるのもありかもな……。
あ、ご協力、ありがとうございます」
畑はメモを終えると、竹中に礼をし、怪しい人物の元へと急ぐ。
目指すは、現場近くの牛丼チェーン店、牛乃屋。
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