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昭成六十四年、ある田舎町で暮らしている双子の姉妹の華子と未來は二人の思いがリンクしたその時、見たい人の過去と未来を見ることができる不思議な能力を持っています。
未來はその能力を使って人々の役に立ちたいと思っていますが、一転華子はかたくななまでに否定的です。
そんな折、華子が思いを寄せている幼馴染のおじいちゃんが「あるもの」を見つけるために東奔西走していることを知ります。
未來は役に立ちたいと思い立って、いやがる華子を伴いおじいちゃんの過去と未来を覗くのですが……。
殺戮、強奪、裏切り、絶望……戦争体験者であるおじいちゃんの悲惨な過去、吐き気をもよおし目をそむけたくなるそんな現実から未来へと導いた「あるもの」の正体とは!?
【登場人物紹介&ピックアップ】
■登場人物紹介
★華子
未來の姉。
何事にも冷静な判断を下す、年齢に合わない落ち着きを持つ女子高生。
未來との思いがリンクした時に、相手の未来を覗くことができる不思議な能力を持っている。
静かな環境を好みうるさいのが苦手で、活発かつ騒がしい未來のことを苦々しく思っている。
幼馴染の隼人に片思い中。
★未來
華子の妹。
華子との思いがリンクした時に、相手の過去を見ることができる不思議な能力を持っている。
物静かな華子と対極をなし、騒いだり体を動かすことが大好き。
その勢いあるキャラクターで常に周囲を巻き込むのだが、華子はその一番の被害者。
今回も隼人から聞かされたおじいちゃんの謎の行動に興味を持ち、華子と能力を使って解決を試みようとするのだが……。
★隼人
華子と未來の友達。
未來とはよきけんか相手。
華子のことに対しては、どういう気持ちを持っているのかは不明。
祖父の謎の行動について未來に相談したことにより事態は思わぬ方向へ。
★おじいちゃん
兵隊として戦争に駆り出されていた。
そこで行われた数々の非道な出来事にいろいろな意味で心を痛めていた。
人間としてあるまじき行為、それを否定しつつも結局はやめされることができない非力さ、そしてなによりもそのことに心を痛めている自分自身の偽善に対して。
■作中からのピックアップ
作品の中から適当に内容や雰囲気が分かる部分をピックアップしました。
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「だから、もし私が望むような未来像を知ったとしたら逆にぶち壊しにする行動を取る。それこそ取り返しのつかないようなことを。そのためには人殺しだって辞さないかも。約束された未来をぶち壊すためにね。それでもやっぱり描かれたとおりの未来が開けたときは……自殺するでしょうね」
「じ、自殺なんて、そんな」
「私が将来思い描くものになれたのは努力でもセンスでもない。単に、すでに決められていることなのだとしたら、すべてが虚しくなるはず。そんな人生なら、生きていたってしようがないでしょう」
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お前は幼稚園児か。
この十六歳児が!
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「誰かの幸せは誰かの不幸せというのは残念ながら決定していることなのよね。自分たちの視界の中のものが世界のすべてではないのだから。忘れがちなことだけれど。だからその場での幸せの割を食うのも近くとは限らない」
「全然見えない、関係のないところで不幸せとなって降りかかるかもしれないわ。これってすごいエゴだと思わない? 小さな幸せを守るために、もしかしたら他の人には大きな不幸が訪れることになるかもしれないんだから、それを見ぬふりして自分さえよければOKとする感覚、あなたはどう考えるのかしら?」
「それって本当にいいことのなの? そしてその後はどうなるわけ? その影響を受けておかしな波紋が広がるかもしれないわね。また未来も変わっていくかも」
「明日、明後日、一週間、一か月、一年、十年、百年、千年……私たちが勝手な都合で未来を変えたことで、もしかしたらとんでもない事態へと発展するきっかけになるかもしれないのよ。それこそ世界が悪い方向へ流れる起源になるかもしれないし、世界を恐怖のどん底へと誘う導火線になることだって考えられる」
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「今日は安息日だったんかな?」
「安息日? なんだそれ? 生理かなんかと関係あるのか」
「アホ! なんで男の俺が生理のことなんて知ってんだよ!」
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鬼とか般若とか仁王像とか、昔から伝わる工芸や絵の顔つきに近い。
今よりも殺伐とした日常であったと思われる昔には、そんな顔、顔、顔、が溢れていて、だからこそそういった恐ろしいものを作ることができたのではないだろうか?
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でもね、未來。
その一途さによって多くの迷惑を生むことだってあるんだよ?
純粋だからといって、それが必ずしも善だとか幸せなことばかりじゃないんだから。
きれいな事や物を苦手とする場合もある。
輝きが眩しすぎるときだってね。
その明るさによっていやなことが照らしだされることも……。
あなたはそれがわかって言っているの?
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「解決策……あっ、そうか! あんたが乗っているから重たくてブレーキ引けないんだ。スピードも出るしね。だからさ、あんた降りなよ。こんな簡単なこと、なんで気がつかなかったんだろ?」
「あっ、そうか、じゃねーだろ! 大体どこが簡単な話なんだよ! お前はあたしを殺す気か!」
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能力に苦しめられ、その能力に助けられる。
なんとも皮肉な話ではないか。
しかも、捨てられない。
捨てた途端に自分はこの場において無価値となる。
だから使う。
そして苦しむ。
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瞬間的にあげ、消えるだけの悲鳴とはわけが違う。
理解のできない言葉は時間とともに耳から消えていくが、意味を理解したものは記憶に残る。
生涯忘れられぬこととして、生き続けるのだ。
僕の中の一部として。
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「そうだ。すべては貴様ら次第だ。今まで人間どもの歴史に足跡を残した能力者たちは時代を彩ることはできた、が、しかし、作ること、変えることはできなかった。それは貴様らの先祖が記した短い歴史とやらを俯瞰すればわかることだろう。よどみなく、一直線につながっていることがわかるはずだ」
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「けっ、かまってられねぇや。ところでよ、この間おまえんとこで買ったジャンプだけど一週間前のだったぞ。金返せよな」
「アホ! 雑誌は返品不可に決まってんだろ。読むだけ読んで返品とか虫がいいっての。それにどうせ合併号でも間違って買ったんだろうが。ザマー見やがれ」
「この減らず口が。古いのは食品だけにしてくれよ。雑誌まで賞味期限切れだと、もうお前の店で売れる物無くなるだろうが」
「どっちが減らず口だ! おい、華子、なんであいつを轢き殺さなかったんだ!」
「なんでもなにも、ブレーキ掛けたのあんたでしょうが」
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「結局今という瞬間を癒してくれるのは未来だけなんだよ。人を慰めることができるのは人間だけなのと同じでね。もちろん動物だとか、好きなものなんかも効果はあるだろうけれど絶対に決定打にはなりえない。だから、時間を癒すのも時間しかないんだ」
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