僕達は闘わない

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僕達は闘わない

「撃て、撃て、撃てえええ!弾幕を途切れさせるな、敵の侵入を許すなあああ!」  部隊長が叫ぶのを、ロシェは苦々しい思いで聞いていた。最近、自分達“男性”の国は完全に押されている。“女性”達の方が数が多いというのが最大の理由だった。魔法文明が発達したこの世界では、白刃戦よりも魔法の強さで優劣が決まることが多い。男性達の唯一のアドバンテージであるはずの腕力の強さも、こう押し切られてしまっては無いも同然だった。  近年の統計にも出ている通り。魔力は互角でも、数と体力は女性の方が上である。この砦が落ちてしまえば、敵の狙う“湖”まであっという間に占拠されてしまうことは目に見えていた。ロシェも仲間達も当然必至になる。女性達に侵攻を許し、敗北を喫すれば――それは即ち、全ての男性達が皆殺しにされることに他ならないのだから。  女性が女性同士で恋をし、男性が男性同士で恋をし、同性同士で子供が作れるようになったこの時代。男性と女性で恋愛をし、子孫を繁栄させたなどという事実は歴史書の中にしか残っていない。同性同士で恋ができて子供が作れるのなら、意見や価値観が合わない異性の存在はもはや無用だった。――最初のきっかけは、そんな些細な衝突であったことだろう。それがまさか、男性の国と女性の国でまっぷたつに分かれて戦争を起こす結果になるなんて、一体誰が想像しただろうか。 「ロシェ、ジェイの部隊の弾薬がもうすぐ切れそうらしい!補給に向かってくれ!」 「わかりました!」  部隊長に命じられ、砦の中を走る、走る。まだ十五歳のロシェにはまだ彼氏と呼ばるような存在はいなかったし、当然子供もいなかったが。この砦に勤務する軍人の中には、子供を持つお父さんやお母さんも少なくない。彼らの子供達を、路頭に迷わせるわけにはいかなかった。故郷に、家族に、友達。自分達は皆、守りたいものがあって此処にいるのである。ロシェにもまた同様に。 ――乗り切るんだ、なんとしても!家族を……あの人を、絶対に死なせてなるものか!  ロシェの守りたいもの、それは。  家族と友人――そして敬愛する、男性国家“ミール”のリーダー――アンジェロ・グラシカルのことだった。
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