僕達は闘わない

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 *** 「何を考えているのです、プリシラ様!」  女性国家“フィーメ”のリーダー、プリシラ。その副官である女兵士エリザベータは叫んでいた。今日の日中の戦い。あと少しで男性軍の重要拠点である砦を落とせるところまできていたのに、あろうことかプリシラは直前で兵を引かせたのである。  エリザベータは納得がいかなかった。あそこさえ落とせれば、彼らが持つ豊かな塩分と栄養に溢れた海も、すぐに飲み水にできるほど澄んだ淡水に溢れた湖もきっと手に入ったというのに。  最近のプリシラの作戦は少々妙なところだらけだった。一見すると男性の軍を絶え間なく攻めつづけているように見える。だが、実際のところは壊滅寸前のところで相手に逃げられたり、反撃を食らって撤退を余儀なくされるのが常だった。終始数で勝るこちらが優性であるというのに、攻めきれない。プリシラの作戦に、問題があるとしか思えない。 「私は、貴女を尊敬しておりますわ、プリシラ様!だからこそ知りたいのです、貴女様が何を思って兵を退かせたのか……!」  だからこそ。副官であるエリザベータは今、無礼を承知でリーダーの執務室に突撃し、直談判をしているところなのである。  敬愛するリーダーが、ここ最近何を考えているのかさっぱりわからないのだ。まるで、何かの時間稼ぎでもしているかのように。 「……お前の心配は尤もだ、エリザベータ」  勇ましく刈り上げた短髪の女軍人は。紺碧の瞳で、じっとエリザベータを見た。 「だが、わかって欲しい。……このまままともにミールと戦い続けても、埒があかないということを。きっと我らは男性達を壊滅させることができるだろう。しかし、こちらにも莫大な犠牲が出ることは免れられまい。我らの軍にも、小さな子供がいる父や母が大勢いる。彼らを戦災孤児にするわけにはいかん」 「それは、軍に志願した時点でみんな覚悟の上ですわ!死ぬことなど恐ろしくありません、それよりも大切なのは、我らの勝利であるはずです!」 「その通り。最も優先するべきはプライドでもなければ生死でもない……真の勝利を手に入れることだ」  ゆっくりと立ち上がる彼女は、筋肉質で傷だらけの手で――そっとエリザベータの頭を撫でたのである。 「もうじき、準備が整う。それまで待っていてくれ。必ず、我らに勝利の女神は微笑む。私には、先代から受け継いだ最強の武器があるからな」
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