第11話 幕間 『シルフとウンディーネ』

1/1
前へ
/56ページ
次へ

第11話 幕間 『シルフとウンディーネ』

   病室でセイラと再会した際、ナオト兄さんもすぐ駆けつけてきたので、僕はナオト兄さんに事情を話した。もちろんセイラのいないところでだけどね。  しかし、僕もナオト兄さんが正義のプロレスラーとして、ライオンのマスクを被り、リングで格闘している姿は知っていたけど、まさかビヨンド能力者だとは思わなかった。  あの時、ベリアルとの戦いの際、ライオンマスクをイメージし成り切ったのは、理想のヒーローだったからだ。    でも、それが本当だったとは・・・。  セイラにはミギトは大した怪我じゃなかったので、仕事に行ったってことにしておいた。  セイラはヒョウリがセイラを庇って大怪我をしたことまでは覚えていたから、死ぬかもしれないと思ったそうだ。  まあ、実際、ヒョウリは死んでしまったのだから、それを間近で見たセイラが、ヒョウリの死を予見しても至極当然といえば当然だった。      セイラは僕(ヒョウリ)のそばから離れなかった。そしてすごく元気で明るく振る舞っていた。  「ヒョウリ兄ちゃんに、りんご剥いてあげるねっ(にっこり)」  もちろん、それはキャサリン先生やシスター・テレサ、孤児院のみんなが死んでしまったことの悲しみから、できるだけ眼を背けたいという気持ちからだった。    僕もできるだけ快活に、ヒョウリらしく返す。  「うん、いいね。りんご。美味しそうだよ。ありがとうね。セイラ。」  「ありがとう。ヒョウリ兄ちゃんが私を守ってくれたから、ホントに、ホントに・・・」  そこまで言ってセイラの両の眼から大粒の涙が溢れ出した。  きっと我慢していたのだろう。その後は堰を切ったように、わんわん大声出して泣き出した。  いくらIQが高い子でも、子どもは子ども。一生懸命、耐えていたんだろう、その悲しみに。  僕はベッドのそばに座り込み、僕に顔をうずめて泣いているそんなセイラの背中を優しく撫でてあげることしかできなかった。    「セイラ・・・。いいんだ。君が生きていてくれて本当によかった。」  ヒョウリである僕がそう言った。これはヒョウリの本心でもあり、僕ミギトの本心でもあった。  そして、その後、長い時間、セイラと僕はいろんな思い出を語り合い、大いに泣いたのだった。        その数日後――。  僕は退院し、セイラはナオト兄さんが引き取ってくれていたので、ナオト兄さんの道場・『獅子の穴』の前に立っていた。      ナオト兄さんのプロレスラー養成所『獅子の穴』は門下生も50名を越え、日本一のレスラー養成所だった。  僕が、その門を開き、中に入ると、門下生の視線が一斉に僕に注がれた。  僕は今日は素のミギトの姿だった。門下生たちは僕を一瞥しただけで、すぐ元の訓練・練習に戻った。  僕に対して何の興味もない、そんな雰囲気がぷんぷんしていた。    「お!ミギト・・・来たな?」  そんな快活で大きな声をあげ、ナオト兄さん・・・今日はライオンマスクの姿ではなく、人間・ナオト・デイトの姿だった。  覆面レスラーなのに、正体バレとか気にならないんだろうか?     そんなことを僕が思っている間に、ナオト兄さんは僕に近寄ってきて、こうボソッと囁いた。  練習している道場の門下生たちには、おそらく聞き取れないほどの声だったが、僕の耳にははっきりと聞こえた。  「ちょっと、奥の秘密の特訓場に来い!」  「は、、、はい!」  僕はなぜか驚いてしまった。それはおそらく、チャクラエネルギーによる念話のようなものだったからだ。  周りの門下生たちは誰ひとりとして、ナオト兄さんの生命チャクラに反応した様子はなかった。  僕だけにわかる、そんな感じだった。      このナオト兄さんが代表を務めるレスラー養成所『獅子の穴』は、エリアトウキョウの片隅にあった。  広さはかなり大きく、ネオトキオドーム3つ分くらいあった。  50人の門下生が練習していたのは、入り口入ってすぐの大広間で、ここはドーム2つ分悠々ととってあった。  そして、その奥に、ナオト兄さんしか鍵を持っていない、秘密の特訓場へ続く長い廊下があり、その奥にその扉が厳重に閉じられていた。      この扉を開ける鍵はナオト兄さんその人そのものだった。  最新A・I.を駆使して完璧なセキュリティが組まれ、本人認証のため、そのDNA・指紋・声紋・脳波・虹彩などすべてスキャンされ、ナオト兄さんと一緒でなければ入ることができなかった。  かくいう僕も、実は入ったことがなかったのだ。  ここのセキュリティを管理しているのは、超A・I.シルフだった。全世界を5大派閥に分ける超A・I.の一角ということになる。  超A・I.シルフは、進取の精神を尊び、冒険する開拓者精神を好む超A・I.であった。主に活躍するフィールドは、インド・アジアエリアや宇宙スペースエリアでその方面のネットワークを広げていた。  インドエリアの宇宙工学技術は他エリアよりも群を抜いていた。    シルフは僕をスキャンして、その音声でこうアナウンスした。  「人間ヒューマノイド・男性・名前 『ミギト・イズウミ』 独身・職業・俳優。特に異常なし。安全と判断いたしました。」  そう音声ガイドされた後、その重い扉がゴゴゴゴゴゴゴゴっと音を立て、開いた。  僕とナオト兄さんが入ると、また扉は閉ざされた。        ナオト兄さんはその奥にあるトレーニングルームを通り、いくつかある部屋の前を通り過ぎ、ある部屋の前に立った。  その部屋の扉は特に鍵がかかってる様子もなく、あっさり開けたナオト兄さんのその部屋の奥には、セイラの姿があった。  「ミギト兄ちゃん!元気だった?」  「セイラ!無事だったんだね? 良かった。」  「うん。もう聞いたよね?孤児院のこと・・・。」  「うん。本当に・・・大変だったね・・・セイラ。怖かっただろう? ここならもう安心だね。」  「うん、すべてナオト兄さんのおかげ!さっすが、正義のヒーロー・ライオンマスクだね!」  そんな僕たちのやり取りを黙って部屋の隅でほほえみながら見ているナオト兄さんの顔は、こころなしか照れていた。    こうして、僕・ミギトとセイラは孤児院消失事件から、初めて(?)再会した。  すっかりセイラもいつもの様子を取り戻していた。本当に強い子だ。僕なんかよりずっと。  その後、三人でしばらく語り合った。いろんなことをーー。  そして、ナオト兄さんは僕を連れて、外に出てこう言った。    「ここはセキュリティは万全だ。セイラが守られることは間違いない。おそらくやつらはここを目指してくるだろうが。」  「うん。超A・I.がどうしてウンディーネ系じゃなくて、シルフ系なんですか?」  「うむ、そうだな。普通ジャパンエリアではアメリカエリアやヨーロッパエリアなどと同じウンディーネ系の超A・I.の勢力下にあるんだが、そこをあえてシルフ系で守っているんだ。」  「それはなぜなんですか?」    「そうだな。ウンディーネ系は根本は資本主義、つまりマネーが全て支配するという原理なんだ。だから巨大資本には情報が筒抜けになることを覚悟しなければならない。」  「なるほど。兄さんはそういう権力や財力を持った相手にも屈することなく戦っているんだね・・・。やっぱ、ナオト兄さん、すごいや。」  「そう明らさまに褒められると、なんだか照れるだろ。まあ、シルフ系は反骨の精神、進取の精神を尊ぶからな。オレに協力的なのさ。」  「そうか。わかった。なら、セイラは安心だね。」  「・・・そうだな。当面は大丈夫だと判断していいだろう。」  そうか・・・。僕はセイラの身がひとまずは安心なことを確認できて、ほっと安心したのだった・・・。 ~続く~
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加