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第31話 復讐編 『和流石建設本社・潜入』
和流石建設の社長室の重々しい扉が、警備担当の者の手でセキュリティロックが外されると、警備担当の者が言う。
「社長!ナオ様とユージン様が参りました。」
部屋の中から、声が聞こえる。
間違いない・・・和流石八千王の声だ。
「おお・・・来たか。」
大きなデスクの向こうのでかいソファにふんぞり返って座っている和流石八千王の姿があった。
僕とナオは警備担当の男が、ドアの中に入り、ドアの直ぐ側に立ったあとで、中に入った。
「先日、社長に頼まれた、例の土地の件、片付けてまいりました。」
「ふむ、ごくろう。あそこは、今後、必ず値上がりするからの。押さえておきたかったからな。ボーナスははずむか。わっはっは。」
和流石はご機嫌そうだった。
僕はすかさず、聞いてみた。
「社長、今度アクノ大臣と会われるそうですね。」
「んん?ああ、そろそろ例のショッピングセンター計画の最終打ち合わせをしなくてはいかないのでな。」
「ですが、妙なヤツラが嗅ぎ回っているということです。いつ会われるのです?俺たちも警戒しなければいけないですから。」
「ほお・・・ユージン、おまえもなかなか気が回るようになってきたな。そうだな。
来週の水曜日の夜、ロッポンギエリアのうちの系列の料亭『和流匠亭(わるだくみてい)』で会合の予定じゃよ。」
「では、我々も同行させてください。中で警備しましょう。」
すかさず、ナオがそう声を上げた。どうやら、僕が意見したのを和流石が褒めたから、自分も何か取り返そうという様子だった。
「ふむ、わかった。では同行を許そう。」
その後、僕たちは挨拶をし、部屋を出て、また来たときと同じ経路を通り、本社ビル1階に降りてきた。
ナオ・カイザワが僕に向かって、
「飯でも食いに行くか?」
と、声をかけてきたが、僕は、一刻も早く立ち去りたかったため、断った。
「いや、今日、すいません、ヤボ用なんスよ。」
「なんだ、そうか,じゃ、仕方ないな。また明日な。」
「はい、すいません、ナオさん。」
そう別れの挨拶を交わした僕は、一目散に、さっき、ユージンを気絶させた場所に戻った。
なんだか、少し、道より外れた奥まった分かりづらいところに移動しているような気がしたが、僕は焦っていたため、あまり気にしなかった。
僕は、そのときにはすでにナオ・カイザワの姿になりきっていたんだ。
「ユージン!おい、起きろ!」
「んん・・・あぁ、ナオさん、いったいどうしたんですか?」
「いや、急にお前が貧血か何かで倒れたから、介抱してやってたんだよ。」
「ええ!マジすか?そりゃあ、すいません。」
「まあ、何事もない様子でよかったわ。」
「それより、例のアクノ大臣と社長の会食だけどな、来週の水曜の夜、ロッポンギエリアのうちの系列『和流匠亭』でやるから、俺たちも警備に同行しろってさ。」
「え?そーなんすね。」
「ああ、さっき俺が社長に今日の報告した時に、指示があった。」
「あ、本社に報告、行かなくていいんスか?」
「ばーか。お前が倒れたなんて言ってみろ。お前、クビになるかもしれんぞ?社長は鍛えてないやつは嫌いだからな。」
「あ・・・!ナオさん、今日のことは内緒にしておいてください!!」
「当たり前だろ。お前も今日のことは社長には特に言うなよ?」
「わっかりました。あざっす。ナオさん。」
「へ。いいってことよ。」
そう言ってユージンと別れた僕は、人気のない通りに入り、その奥でナオの変身を解き、ヒョウリの姿になった。
僕は油断していたんだ。その時は。
「ふぅ・・・。疲れたな・・・。」
そう僕がため息を漏らした時、僕の後ろから声をかけられたんだ。
「ほお、不思議な能力があるもんなんだな。お前、何者なんだ?」
僕は驚きとともに振り返った。
そこにいたのは、なんと、リーヴァイス・ジーンズ先輩だった。僕=ヒョウリの所属する『チョーサ劇団』の看板俳優、最強の演技者・リーヴァイス班長だった。
「リ・・・リーヴァイス班長・・・。」
僕はただただ、頭が真っ白になっていた。
「ふん、貴様が何か特別な何かを持っていたことは前から知っていた。いまさら隠すことはない。オレはそういうのは子供の頃から勘が鋭い方でな。なぜかわかるんだよ。」
「え? リーヴァイスさん、まさか・・・ビヨンド使いなんですか?」
「ビヨンド?そういうのはオレは知らない。お前のその特殊な能力のことを言ってるんだろうが、オレはそういうのがわかるというだけだ。オレにはそんな特殊な能力なんてものはない。」
「そ・・・そうですか。見られてしまったからには・・・、すべてお話します。その上で僕を・・・判断するのはそれからにしてほしいんです。」
「ふん、オレは特に貴様にどうこうするつもりもない。だが、話したいと言うなら聞こう。」
「ありがとうございます。」
僕は、それから、リーヴァイス先輩に、アカシックレコーズとサーシャやアカリンのことは伏せて、その他のことを包み隠さず話した。
孤児院の事件のこと、ナオト兄さんに助けられたこと。だけど、僕が本当はミギトだって言うことは、どうしても言えなかった。
リーヴァイスさんは、僕が話している間、一言も話さず、ただ、相槌を打って黙って聞いてくれた。
そして、僕が語り終えた後、しばらく沈黙があった・・・。
「そうか・・・。何かチカラになれることがあれば、遠慮なくオレに言え。演技者としてはもちろん、その事件のことについてもだ。オレはお前を本当の仲間だと思っている。
決して、今回のように一人で勝手な行動は取るな。いいか?お前に何かあれば、悲しむものがいるだろう? むろんオレもそうだがな。」
「リーヴァイスさん・・・。そんなにも僕のことを・・・。」
「ふん・・・。みなまで言わせるな。照れるだろ。」
僕は自然と涙が溢れて止まらなかった。こんなにも思ってくれていただなんて・・・。
「わかりました。そのお言葉、ありがたく胸に頂いておきます。」
僕はそうリーヴァイス班長に告げ、涙を拭った。
「わかってくれたなら、それでいい。オレはお前の演技の才能に未来を見ているんだ。」
「うぅ・・・」
亡きヒョウリの夢が、僕=ミギトの夢が・・・僕の胸の中を駆け巡った。
「精進します。ご期待に応えられるように。」
「おう。じゃ、気をつけて帰れよ。」
「わっかりました。」
その夜、僕は『獅子の穴』の僕の部屋に戻り、泥のように眠った。
そして、ひさしぶりに、ヒョウリやキャシー先生、シスター・テレサや孤児院の仲間たちの夢を見て、起きたときに涙を流していた・・・。
だが、心はここ2ヶ月の中で、一番晴れやかだった・・・。
ところ変わって、アクノ・ダイカン大臣邸。
ある派閥の政治家がこの日、集まって会合を開いていた。
呼ばれていたのは3名でいわゆるギレノ派と言われる派閥に属している政治家達だった。
主催したアクノ大臣は、ゾーン財閥でもガルウ派といわゆるガルウ親派であり、政治家としてはギレノ派閥ではあるが、ゾーン財閥内部の派閥ではガルウ派とみなされていた。
呼ばれた三名の政治家は、ローム・スカ・パロウ財務大臣、マガセ・フォーシーズン環境大臣、イツキ・ブルーム防衛大臣だった。
ローム財務大臣は、野心的な政治家で、マガセ環境大臣は超天才の何を考えているかわからない怪しいところのある女性政治家。
そして、最後のイツキ防衛大臣は、三名の中では一番の理想主義な政治家だった・・・ただし純粋な悪として・・・。
この夜の会合で何を話されたかは不明である。
だが、この世界に恐ろしい計画が企てられていることは間違いなかった。
このアクノ邸の厳重なセキュリティの中で、その外の庭に、骸骨の顔をした謎の黒い影が潜んでいたことに、ウンディーネ系の超A・I.でもってさえ、まったく気づくことはなかった・・・。
「ふふふ・・・これは、我が主・アール・ベッド様に報告せねばならないな・・・。まったく・・・それにしても、うちって本当にブラック企業だよなぁ・・・休みがほしい・・・。」
そう文句を言う骸骨の顔をした男の名は、デス・キング。アカシックレコーズのアール・ベッドの配下『守護神』の一員だった。
~続く~
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