第5話 孤児院消失事件 『ベリアルという悪魔』

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第5話 孤児院消失事件 『ベリアルという悪魔』

 シスターテレサに化けていた赤い悪魔が、ゆっくり語ってきた。  「ふむ、死にゆくものへの手向けとして、名乗らせていただこう。」  「私の名はベリアル!我々の世界ではそう呼ばれている。赤い貴公子ベリアル様だ。」    ベリアル・・・と名乗った赤い悪魔は、今までに見たこともない勝ち誇ったドヤ顔でそう言った。 声もシスターのものとまったく違う、地獄から響いてくるような恐ろしげな声だった。  「ベリアルといったか、貴様、今、何をした? コールカスを・・・よくも!」  「それに、その服は・・・シスターテレサをどうしたんだ!?」    赤い悪魔ベリアルは、薄気味悪い微笑みを浮かべながら、  「質問はひとつずつにしてくれないかねぇ・・・まぁいい」  「冥土の土産っていうんだっけ? このJAPAN・AREA(ジャパンエリア)では・・・。まぁ私は地獄の貴公子だから、地獄の土産にってことだけどね・・・くっくっく・・・。」  「あれ?面白くない?イッツァ悪魔ジョークさ!」    ヒョウリはベリアルのふざけた態度に、憤慨し、荒げた声を上げた。  「いいからっ!!シスターはどこにいるんだっ!!」  「もちろん、あの世ですよ・・・。」    「あー、最後まで神に祈りを捧げてましたね・・・信心深い人でしたよ・・・ふふ」  「そうですね、ここの物置の奥に隠しておきましたよ・・・ま、確かめに行くことは、もうできませんでしょうけどね・・・あははは」      べらべらと自慢気に語るベリアルのその言葉に強い怒りとともに恐怖を感じていたヒョウリは、キャシー先生をかばいながら、なんとか逃げる方法を考えていた。  キャシー先生は、シスターのことでさらにショックを受けて、顔が真っ青になっていた。  ヒョウリは、先生に向かってひっそりと告げた。      「キャシー先生、僕がおとりになります!そのスキに逃げてください・・・。」  「ヒョウリ!何を言うの!?そんなことはできません。あなたこそ、子どもたちを頼みます。ここはわたくしが!」    そう言ったキャシー先生が、ベリアルに一瞬で近寄っていった・・・  「あ?自分から殺されに近づいてくるとは、観念しましたか?」  ベリアルがそう言って、キャシー先生へ手を伸ばした瞬間、キャシー先生が、シスターの制服の部分を掴んで、きれいな背負い投げを決めた!!      ・・・かに見えたが、空中でくるりと身体を捻り、ベリアルは倒れることもなく、キャシー先生と向かい合うように降り立った。  「いや、驚きました!院長先生、格闘技の経験がおありだったとは・・・」  ・・・が、しかし、惜しかったですね・・・」    その瞬間、キャシー先生とヒョウリのちょうど間にいたベリアルが、黒いオーラを見せた! その直後、キャシー先生は恐怖に顔を凍らせながら、ゆっくりと床に崩れ落ちていった。  ヒョウリはその瞬間に、一瞬にして背後からベリアルに殴りかかろうとしたのだが、その拳は虚しく空を切り、代わりにそこに恐ろしい骸骨が無数に現れた・・・。      たちまち、恐怖にとり殺されそうになったヒョウリだったが、なんとか心を強く持つことで耐えしのぐことができた。  「先生を離せ!!」  ヒョウリは舞台上でアクションをするために、実践式の武道、古武道を習っていた。    気を吐き、一気に身体をその場で回転し、蹴りを左右と連撃した!  まるで舞いを舞っているかのような美しい所作だった。  これには、さしものベリアルも一瞬、怯み、その両の腕でガードをした。    そのスキにヒョウリはそのまましゃがみ、さらにベリアルの両脚を払った。  ベリアルは、空中に飛ぶように背面宙返りをして、ヒョウリの位置と入れ替わった。  そして、ヒョウリは地面に倒れたキャシー先生を見たが、その眼は輝きを失っていた・・・が、死んだわけではなかった・・・    恐怖に囚われていたのだった。つまり、ベリアルはなにかの能力で人に恐怖を与えることができるようだった。  すると、ベリアルは顔を歪めて、地獄の底から響くような声で憎々しげに叫んだ・・・。  「小僧おおっ!!よくも・・・そのカエルの小便より薄汚い足で私を・・・」  「もう、手加減はおしまいです!喰らえ!!私のビヨンド能力『The brainless throngs steps of horror(ザ・ブレインレス・スロングス・ステプス・オブ・ホラー)』の恐怖の炎、フィアーファイアーーっ!!」 すると突然、ベリアルの身体が先程感じた黒いオーラを纏い、それが黒い豪炎に変わった!  たちまち黒い炎で部屋中が包まれ、家具もカーテンも机も燃え移っていく・・・    そう、それはまさしく幻覚ではなく、現実の炎だった・・・。  炎に巻かれ、包まれながら、ヒョウリは自身の身体で、キャシー先生を必死に守ろうとしていた。  「ふっふっふっ・・・私の『ソドムの黒炎』の炎は決して消せない地獄の黒の炎・・・」   さらばです!院長先生、そして、勇敢な少年よ!」    そう言ってベリアルは部屋を出て、子どもたちのいる寝室の方へ去っていった。  「うぅ・・・ヒョ・・・ヒョウリ・・・子どもたちを・・・早く・・・行って・・・お願い・・・」  キャシー先生は全身ひどい火傷を負い、息も絶え絶えにヒョウリに訴えかけた。  ヒョウリも、あきらかに先生が重症なのはわかっていた・・・が、ヒョウリもキャシー先生の子どもたちへの強い愛を痛すぎるほどわかっていたのだ。  キャシー先生は、自分の身より、子どもたちを優先すると・・・。      ヒョウリは、黙って頷き、キャシー先生を鉄製の机の陰に移すと、  「キャシー先生、待っていてください。子どもたちを逃したら、必ず戻ってきます!」  「た・・・頼みましたよ・・・ヒョウリ・・・。」    ヒョウリはそのまま部屋から駆け出し、ベリアルの行った方を追っかけていった。 子どもたちの大部屋は、院長室とちょうど長い廊下の階段を挟んだ反対側であった。  行く手の部屋側は黒い炎で包まれていっていた。  どうやら、ベリアルが燃やしながら進んでいったらしい。 すべての部屋から黒炎が上がっていた・・・。  ヒョウリは炎を交わしながら、ベリアルの後を追ったのだった・・・。   ~続く~
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