02◆6月6日-2

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02◆6月6日-2

静寂を突如切り裂く車の走行音。夜も深まり始めた23時の出来事だ。 自宅マンションのベッドで屋外のそんなエンジン音を何度か耳にしていたのはシエラ。 うるさいと思うでもなく、スレンダーな身を横たえて就寝の構えを見せていた。 ところがベッドに入ってすでに15分以上経つもいまだ睡魔は訪れず。 昼と夜が逆転したかのように目は冴え、感情も昂っていた。 閉ざした瞼に浮かぶのは、日中出会ったひとりの男の姿。 「今夜、会いに行くから」 彼は耳障りのいい声で確かにそう言った。 にもかかわらずシエラは来るはずがないと決めつける。 この家を知るはずないし、復讐者が煩わしくて始末するのなら日中だってできた。 それに今まで優しかった彼がそんな真似……。 そこまで考えてハッと誤りに気づき中断させた。カタキ相手を弁護するような思考を抱いてしまった。 「何をしている!」と胸中で己を叱咤する。 しかしわずか数分後、重い吐息と共に彼女は呟くのだ。「ウィル……」と男の名前を。 4ヶ月ぶりに出会った彼はやはり美しく大胆不敵で、不思議な魅力にあふれていた。 忘れようとしても思い浮かぶのは彼のことばかり。 今日彼と交わした初めてのキスが衝撃的すぎたのかもしれない。 あっという間の、優しいキスだった。 日付はまもなく変わる。おそらく彼は現れない。 あの予告は遊びでしかなかった。彼の冗談でしかなく、今頃はこの街に来た真の目的を達成すべく悪事を働いているのだろう。 こう予想したからこそシエラは半袖の薄着と7分丈パンツという全くの普段着で今を過ごしているのだ。 カチャン…… パタン 不意に、隣のリビングルームから聞こえたのは間違いなくグラス同士の触れあう音。棚のガラス扉が閉じた音。 泥棒?と上体を起こしてシエラは耳をそばだてる。物音はもう聞こえない。物色の途中なのだろうか。 もちろん恐怖はあるが確認のため床に足を下ろした。まず窓を静かに開け、手にはスマホを握り、そろりそろりと歩き出す。 今日は厄日だと天を仰いで、すぐに気を引き締め直した。 最小限の音を心掛け、ドアを少し開けて隙間からリビングを覗き見る。 消したはずの照明は灯され室内を照らし、侵入者の存在を証明していた。 というより侵入者は素顔をさらし慌てた様子もなく居座っていた。 堂々とソファに腰を下ろしてグラスに注いだ酒を嗜んでいる。 男がひとり。黒髪、黒い瞳の、先ほどまでシエラの脳裏に住んでいた人物。ウィルの姿がそこにあった。
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