それぞれの始まり

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「失礼します」 と、黒いスーツを着た男が入ってきた。斎場の人だろう。挨拶が終わると手際よく遺体を運ぶ。その後、通夜、告別式と行わなくてはいけないが、親父は死んでいるし兄弟もいない。という事は、俺が喪主になってやらなくてはいけない。面倒だったが親戚はいるので一応連絡をした。しかし連絡を受けた親戚は、俺の予想通り 「そう亡くなったの」 それだけのそっけない返事ばかりだった。ひどいのになると、名前を言っただけで電話を切られた。お袋がどれだけ嫌われていたのかが分かる。 そして通夜当日、これまた俺の予想通り、親戚、隣人、友達、誰一人来なかった。 斎場の人はすごく驚いていた。だがこれでやるしかない。 坊さんと俺一人の通夜と告別式が始まる。 ここまで人に嫌われる人間っているんだな。坊さんのお経を聞きながら改めて思った。焼香も俺一人なので、多分日本で一番早い通夜、告別式だったんじゃないかと思う。 しかし、ここまでスムーズにいってたものが、火葬場で問題が起きる。 火葬炉に入れ焼け終わるのを部屋で一人待っていた時、火葬場の職員が来た。 「申し訳ありません。もう少しお時間がかかるのですが・・・・・・」 「ああいいですよ」 特にその時は深く考えなかった。 しかし、その後1時間経った頃にもう一度同じ職員が来た。凄く恐縮した様子で、 「申し訳ありません。少しトラブルがあったようでまだ、時間がかかるみたいでして」 「トラブル?」 「はあ。なんでも、火葬炉の調子が悪いとか・・・・・・」 「そうですか」 「本当に申し訳ございません。もう少しお待ちください」 「・・・・・・わかりました」 文句を言っても仕方がない。 また、一人になりタバコをふかしながら 「ったく。さっさと終わらないかな」 と呟いた。
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