それぞれの始まり

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「大変お待たせしまして申し訳ございません」 ようやく終わったらしい。さっき来た職員が申し訳なさそうに部屋に入りペコペコ頭を下げながら言った。 「終わったんですね」 「はい。ご案内いたしますのでこちらへ」 俺は、その職員と二人で火葬炉へと向かった。今日は俺だけなのか建物の中はしんと静まり返っている。 案内された火葬炉の場所では、燃えて骨になったお袋が寝ている形で横たわっていた。 「失礼します」 と案内してくれた男は丁寧にお辞儀をすると部屋から出て行った。骨になったお袋がいる台の隣には、別の職員が一人姿勢よく立っており 「お待たせしました。では、骨上げにはいります。よろしくお願いします」 と恭しく頭を下げたので、俺も慌てて頭を下げた。職員は、一つ一つの骨の部位を説明していく。俺にとってはどうでもいいことだったが、俺一人しかいないので仕方なく相槌を打ちながら聞く。その後、通常なら、二人で長い箸を持ち同じ骨を骨壺に入れなくてはいけないが、俺一人なので、まるで罰ゲームのように数多い骨を箸で骨壺に入れていった。 ようやく最後の一つになった時、俺は聞いた。 「確か、これ喉仏ですよね」 「ええそうです。それは真ん中に来るように入れてください」 仏様の形に見えるので喉仏というという事は知っていたが、見るのは初めてだった。成る程、仏様が座っているように見えなくもない。俺が喉仏を骨壺にいれようとした時 「ここまで綺麗な形で喉仏が残っている方は珍しいですよ。高齢の方の骨は少ししか残らないものですし、現に他の骨は少ないですからね」 と職員は言った。 (ふ~ん) こういう事に詳しくない俺は適当に相槌を打ちながら骨壺に納めた。 その後は墓に納骨をしなくてはいけないが、うちには墓も仏壇もない。父親が死んだ時はお袋が父親の実家の方に骨を持って行き、親父の身内の許可なくそこの墓に無理やり入れてしまったらしい。位牌も墓の隣に置いてきたと言うからこの母親の性格がわかるだろう。 後日、俺は父の実家の方からの怒りの電話の応対に辟易する。本当なら、長男の俺が墓を建てるのだろうがまだ先の事と思っていたので建てていなかった。 坊さんにも墓への納骨の説明を受けていたが、墓がないので早急に用意してからお願いするという事で、納得してもらった。 「やっと終わった」 俺は、骨壺を持ち車に乗り込むと火葬場を出た。
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