プロローグ

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プロローグ

 アラニバ達の一件から数日。アレスたちは、旅の疲れを取ろうとのんびり過ごしていた。  剣を打ち直しに出したり、新しい部屋着を買ったり、布教活動をしたり、酒場に入り浸ったり……。それぞれが、自分たちの時間を満喫していた。  アレスは、長くなった髪を切るため街の床屋にいた。  髪を切ってもらいながら他愛ない世間話をしていると、自分が勇者だということを忘れることができた。久しぶりに、普段着で出掛けていたからかもしれない。  散髪を終え、さっぱりした気分で街を歩く。  剣も鎧も身に付けていない自分は、普通のルコダ市民に見えているだろうか?  そんなことを考えながら歩いていると、近くの酒場から一人の老人が出てきた。白髪に、見覚えのあるえんじ色の三角帽子とマント。 (ガウルじいさん?)  アレスは首を捻った。  ガウルは、メモ紙のようなものを見ながら忙しない様子で辺りを見回している。そして、アレスがいる方とは反対の方向へ歩き始めた。 「あ、ちょっと。ガウルじいさん!」  慌ててアレスが呼び止めると、ガウルはハッとした様子で振り返った。 「アレス? アレスか?」  ガウルは目を見張ると、アレスの方へ駆け寄ってきた。 「ガウルじいさん、どうしたんだよ? そんなに慌てて──」 ──ポカリ! 「イテッ!」  急に殴られたアレスは、おもわず身をすくめた。 「な、何するんだよ急に!」 「ワシの事は長老と呼べと、いつも言っとったじゃろ!」  ガウルは、手にした檜の杖を振り上げながら怒鳴りつけた。 「だからって、いきなり殴ることないだろ?」 「ふん! まったく。相変わらず成長せんヤツじゃわい」 「ちぇ……」  久しぶりに小言を言われ、アレスは小さく舌打ちした。 「それで? ガウルじいさん──じゃなかった、長老が街に出てくるなんて珍しいんじゃないか? いつも『疲れるから遠出はしたくない』って言ってたのに」  アレスが痛む頭を擦りながらそう言うと、さっきまでとはうって変わって沈んだ表情になった。 「火急の用が出来てな。ゲートの魔法を使ったのじゃ」 「火急の用? それって?」  アレスが尋ねると、ガウルは一呼吸おいて口を開いた。 「キットが……」 「えっ? キット?」  アレスがキョトンとする。  ガウルはそんなアレスを見ながら、悲痛な面持ちで言った。 「キットが、10日経っても戻ってこんのじゃ……」 「!!」  アレスは目を見開いたまま立ち尽くした。
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