視線

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「……で、この写真のどこが変だって?」 放課後のカフェスペース兼食堂は解放されており、生徒の姿もちらほら。 飲食も可能なので、適度な間隔で座っている。メイクをしている女子や勉強をしているらしき者もいる。 そんなテーブルのうちの一つに、数枚の写真がある。 目の前の男は、端正な顔をしている。 派手な顔ではないが、目の横幅が広く睫毛が影を生む。 昔は恐いと怖れられていた無表情も、成長するにつれて流し目のような、こういう言い方は本意ではないが妙な色気がある。 俺が思っているわけではない。女子の評だ。 中学生の頃は無愛想と言われた態度を高校生になったら冷静とか大人っぽいとか。 女子の評価、変わりすぎて笑える。 変わってないんだけどな、コイツ昔から。 「桂吾、話しちまえよ」 こうやって、促さないと悩んでることすら気づいてなかったりする。 俺はお調子者なので、友達が多いように見える。そう振る舞っている。けど実際は構うのも構われるのも好きじゃない。だから、桂吾でなければわざわざ口を出さない。 辛坊強く待っていたら、写真が出てきたのだ。 どれにも、桂吾が写っている。 珍しい笑顔の一枚、雨に濡れた一枚…… 電車の中だろうか、ブレている一枚 運動場で、誰かの背中越しの一枚…… カメラ目線のものばかりではないが、穏やかな笑みだったり、照れたような表情だったり。 めくっている指が止まる。濡れた髪の、自宅であろうもの。 特におかしな写真ではないと思った。 そう思おうとした。 「これ、お前撮られたのわかってんの?」 桂吾が目を伏せた。 「ストーカーか?まさか」 「わからない」 「わからないって、お前」 それって誰がいつ撮ったか、わからないって……ストーカーじゃなくても充分じゃねえかよ。 「別れた女とか、心当たりは」 桂吾の目が揺れた。 その心当たりはあるらしい。 恨まれそうな付き合い方はしない奴だと思っていたが。 相手によっては、恋は病だ。俺たちの年頃は免疫がまだ少ない。 「相手をどうする?」 「俺が怖いのは、そういうのじゃなく」 桂吾が、ゆっくりと言った。 言葉を選んでいる 「この写真は」
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