視線

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そこで、桂吾は手のひらを握ったり開いたりした。 迷っている。 運動部の部活の声が遠く聞こえる。 誰かが自販機で買ったペットボトルがガコンと落ちる。 いくつかの音が重なる層の上に、桂吾は決定的な言葉を乗せようとしている。 やべえ。 乾きを覚えて、手を伸ばそうとした。 ペットボトルに触れる前に、写真の中の桂吾と目が合う。 カメラ目線の、一枚。 いや、すべての桂吾が 俺を見ていた。 指を引っ込める。 目の前の桂吾だけが、俺を見ていなかった。 気のせい、だよな。 写真の中の桂吾は、それぞれの止まった時のなかにいる。鼓動が元に戻っていく。 大丈夫。 「この写真を誰が撮ったのか、届けたのかわからないんだ」 桂吾の声は薄っぺらい。 「桂吾」 何を言おうとしたのかわからない。かける言葉がすり抜けていく。 「だけどな、確実に」 「この写真は、俺のスマホで撮られた」 顔を上げた桂吾は、写真の中の桂吾より顔色が悪かった。 写真の中の桂吾たちは、笑っていた。
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