ピントを写真家に合せた日

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 梨花には、生涯大事にしている写真がある。待受にして、仕事前には必ず見る。  ピントを外してボヤけた写真だ。輪郭がはっきりしない制服姿の女と握手する男の写真だ。  しかし、見ると初心に変える。  写真を一生撮り続けようと決めたあの時に、一瞬で戻れる。  ボヤけていたとしても、師匠のいう写真の本質が撮れている。  日常をもっとも絵画的に美しく、明日を見せている。  これは、この年に撮った写真は何枚もあるが、一番映えている。  それは、五年経った今でも超えられない映えとなっている。
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