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教室の窓を開け、換気をする。
窓から朝の爽やかな風が入り、博美の艶やかな黒髪を撫でた。
教室内の備品を確認するのも日直の朝の仕事だ。
とは言っても、黒板の汚れはないか、授業で使うチョークが足りているか、と言った事を確認するくらいなのだが。
「あら、チョークが少ないねぇ」
黒板に置かれたチョークはどれも短くなっており、このままでは授業中に取りに行くことになりそうだ。
仕方ないとため息をついて、博美は職員室までチョークを取りに行くことにした。
教室のある校舎を出て渡り廊下を抜ける。
ふと、一本の木が博美の目に留まった。
「桜の木に……」
学校の桜並木。
あとひと月すれば蕾も膨らみ花を咲かせるだろうその木々は、今はまだ寒さに凍えている。
その中の一つ、ちょうど端から二番目の木に赤いスカーフが見えたのだ。
博美の視線が自分の胸元にいく。そのスカーフはセーラー服のものとよく似ていた。
誰かの悪戯かもしれない――そう思うと気にするのも馬鹿馬鹿しい。
博美は頭を切り替え、職員室に向かい足早に歩きだす。
チョークを貰い、再び渡り廊下を戻る時には既に桜の木に巻かれたスカーフの事など頭から消えていた。
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