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物語の幕開け
季節は冬――室内なのに吐き出す息が白い。
節電のためにエアコンを切った室内は外と変わらない位に寒かった。
何故、エアコンを切ったのか? 良い質問だね、君。探偵に向いているんじゃないか。
うんうん、探偵の僕がいうのだから間違いない。
ああ、何故僕が部屋のエアコンを切っているのか――だったね。
理由は単純明快さ。ズバリ、節電のためだ。
え、節電の理由? それは……ごにょごにょ。
そうだ、自己紹介がまだだったね。僕は新妻雅。この新妻探偵事務所の所長だ。
僕の活躍については表紙に記載されている原作を読んでほしい。というか、読んでください。お願いします。
何で寒いのを我慢してまで節電をしているのか、だって? 話が戻ったね。そこまで気になるなら仕方ない、お話ししよう。
「邪魔するよ!」
嫌なタイミングで開いたドアから覗いたのは妖怪――じゃなくて、この事務所の大家である奥村博美さんの顔。
いきなり顔のドアップはやめてくれ。僕の心臓に悪い。
ああ、びっくりした。邪魔をするつもりなら、今すぐ帰ってほしい。
しかし、そんなことは口にできない。何故なら……。
「家賃を払うツテは出来たかい?」
そう、今月分の家賃を待ってもらっているからだ。
節電もその為。金策に走りながら節電をして来月分の家賃のためにやりくりする。
情けない? 放っておいてくれ。こっちは生活がかかっているんだ。
「払えないっていうなら……」
「いえ、払います! だからもう少しだけ待ってください」
僕が土下座の姿勢になると、奥村さんはキョトンとした様子だった。
「あたしは、払えないなら少し昔話に付き合ってほしいって言おうとしたんだけどね」
「はい?」
「大掃除で家を片付けていたらね、懐かしいものを見つけたのさ」
そう言って奥村さんがポケットから取り出したのは、色のくすんだスカーフで。
何やら思い出の品らしいと言うことがみてとれた。
「昔話、ですか」
あまり良い予感はしない。むしろ嫌な予感しかしない。
「あたしの昔話に付き合ってくれたら、今月と来月の家賃を半額にしてやるから」
「是非、聞かせてください!」
転身が早いって? 放っておいてくれ。こっちは(以下略)だ。
2ヶ月分の家賃が半額、つまり、ひと月分タダだよ? 話で1日潰れても問題ない金額さ。
「それにしても寒いね、この部屋。エアコンくらいつけたらどうだい」
「はい、ただ今!」
僕はエアコンのリモコンを引き寄せ、暖房を入れた。
節電はいいのかって? 家賃半額には勝てないさ。
と言うわけで、今回は彼女が主役の話らしい。
では、新妻探偵事務所の大家・奥村博美の華麗なる活躍に――親愛なる読者諸君よ、刮目せよ!
あ、これ、僕の時も誰か言ってくれないかな……だめ?
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