創り出す者

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次の日、葵が勤める不動産屋は定休日であった。そこで、葵はその日一日を力の確認に使うことに決めた。 まず始めに取りかかったのは、見た目の変化だ。自分に特別な力があるというのに、部屋着な時点で気分が下がってしまう。戻せなくなることを前提に、葵は着古した部屋着を変えてみることにした。 想像するのは、少し前に買った雑誌に載っていた服だ。白のシャツブラウスとはっきりした黄色のスカートは、ブランド物で葵が気軽に買える金額ではなかった。 葵は目を閉じて、その二つを着た自分の姿を強く想像した。足を覆っていたズボンがフワリと拡がるのを感じて目を開けると、葵は雑誌に載っていた服をきちんと着ていた。 姿見で、後ろ姿を確認しながら葵は不満げにブラウスを摘んだ。見た目は確かに雑誌の通りだが、肌触りが元々着ていた綿の部屋着と同じだ。雑誌には、レーヨン生地と書かれていたのでこれは、葵の想像不足だ。スカートの方はふんわり感を強く想像していたお陰か、綿ではない肌触りに仕上がっている。 「見た目だけは合格か。細かい所まで想像しないと駄目だな。」 葵はもう一度、ブラウスを想像し直した。今度は、肌触りも変わった。 姿見で再度チェックをしてから、葵は、集中する為にまた目を閉じた。 次に想像するのは、ネットゲームの鍛冶屋キャラクターの服装だ。木綿の長袖とズボン、その上にはレザーのエプロンを付けて、腕と足には火傷から体を守るカバーも必要だ。きちんとそれぞれの肌触りも想像して、葵は鍛冶屋な自分を思い描いた。 姿見を覗けば、顔に全く似合っていない鍛冶屋の服を着た葵がいた。 「次は、髪と顔か」 服はともかく、顔を変えるのは勇気がいる。ゲームのようにリセットボタンがある訳ではないから、きちんと自分の顔を覚えておかないと元に戻せなくなってしまうだろうと、葵は心配していた。 葵はまず、自分の顔をスマホで撮りまくることにした。正面、左右、上下。自撮り棒で、出来る限り隙間なく自分の顔を撮る。合わせて30枚撮った所で、葵は覚悟を決めた。 まず、セミロングの髪を腰の辺りまで伸ばした。色は、暖炉で燃える炎のような赤。揺れる炎のように、髪には強い癖を付けた。 タレ目気味な目尻は少し上げて、低い鼻は少し高くして、薄い唇はもう少し厚くする。微調整をしばらく繰り返すと、鏡の中に気の強そうな美人が現れた。 鏡の中の美人は、ニヤリと笑った。 髪をヘアゴムで緩く括り、頭にバンダナを結ぶと、鍛冶屋らしくなった。
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