最初のほし

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リリリリリリッと、鋭い音がスマホから響いた。マナーモードにしてたはずなのに、と葵が自分のスマホを見た瞬間、岡本と社長のスマホも同じく鋭い着信音を響かせた。 葵と同じように、二人共スマホはいつもマナーモードにしていたはずだった。 「え、なんで一斉に鳴ってるの?」 岡本は、真っ赤な口紅を塗りたくった口元を押さえ、社長を見た。社長は、剥げた頭に手を置いて、困惑した顔で、岡本を見返した。 「いや、これはなんだろうね」 「と、とりあえず出てみましょうか?」 葵は、スマホを持った。画面には、〝カミサマ〟と着信相手が表示されている。 「カミサマって、誰?」 そんな相手を登録した覚えはないし、何より、ある程度の間、鳴り続ければ留守電に切り替わるはずのスマホはただ鳴り続けている。あまりの不気味さに、葵は震えた。 リリリリリリッ、リリリリリリッ、リリリリリリッ。 止まらない着信は、不意に止まった。 画面が、勝手に通話中に変わる。電話は、テレビ電話に設定されていた。 「え?」 画面に写っていたのは、真っ白なシャツとズボンを着た男だった。男は、真っ白で何もない部屋に椅子に座って足を組んでこちらをまっすぐに見つめている。白い壁紙に白い服を着ているせいで、男の短い黒髪と黒色の瞳だけが浮いて見えた。 『初めまして、私は〝カミサマ〟です』 「か、神様?」 葵の声が聞こえたかのように、男はにっこり笑った。 男は色白であったが、白人には見えなかった。かと言って、色が白い日本人にも見えない。鼻筋は通っていたが、特別綺麗な顔ではない。黒色の瞳に見えたけれど、瞳の中に様々な色があってそれが混ざり合うように渦巻いているから黒く見えたのだと、後から葵は気付いた。人種も、美醜も、もしかしたら性別さえ見誤っているかもしれない男は、画面の向こうで両手を拡げた。 『変化のない日常に飽いている人間達に、〝カミサマ〟からプレゼントです。今から言う言葉を繰り返してくれた者に、力を与えます』 「「はあ!?」」 社長と岡本が、呆れたように声を上げる。 「何よ、これ?何のイタズラ?」 岡本が着信終了のボタンを押す。すると、岡本のスマホから男の姿は消えた。 「ああ、消せばいいのか」 社長は頭を撫でながら、岡本に習ってボタンを押して、葵を見た。 「ほら、君もこんなおかしなものは消しなさい」 『今、通話を切った人間は、残念ながら力を得る機会を失いました』 社長が言い終わると同時に、〝カミサマ〟の言葉が響いた。 葵は、反射的にスマホを抱き締めた。 スマホから、〝カミサマ〟の言葉が流れてくる。 『人間達に与えるのは、創造の力です。思い描いた事柄が、実際に表れる。欲しい物があれば、それが創れる。得たい能力があれば、それが得られる。どれだけのモノが創れるかは、個人の才能によるけれどね』 「さ、坂本君、ほら、消しなさい」 「待って下さい!ちょっと、だけ。あの、待って……」 いい淀みながら、葵は後退りした。 力が得られる。それは、この退屈な世界から脱出出来るチャンスなのではないか。そんな希望が、普段、人に逆らうことすら思い浮かばない葵に力を与えた。 「あの、最後まで聞いたら切るので、待って下さい!」 そう言いながら、葵は事務所の扉を後ろ手で開けた。 「ちょっと、待ちなさい!どうするつもりなの!?」 岡本の言葉が合図だったように、葵は外に向かって走り出した。 スマホからは、〝カミサマ〟の言葉が続いていた。
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