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黒色の空から無色の水玉が落ちてくる。
わたしが持ってる透明のビニール傘に当たってパチパチと音が鳴る。
かれこれ20分くらい待っているけどバスが来ない。
交通事故でもあったのかな?
空から降る雨のせいで空気が冷たい。寒い。
吐く息も白いのばっかり。
「お嬢ちゃん」
右上から誰かに声をかけられたからそっちの方向に顔を向ける。
「一人?」
THE・サラリーマンという風貌をした男の人がそこにいた。
わたしはコクリと頷いた。
「女の子一人で何してるの?」
「⋯バスを⋯待ってるの」
おじさんの方をよく見るとスーツが濡れていた。
「おじさん傘忘れたの?」
「うん?⋯あぁ、そうなんだ。慌てて会社から出たから忘れちゃったんだ」
おじさんは頭の後ろを掻きながら申し訳なさそうな顔をした。
子供のわたしですら寒いのに、きっとこのおじさんも寒いのだろう、体が少し震えているように見える。
「⋯おじさん私の傘使って良いよ」
右手に持ったビニール傘をおじさんの方に背伸びしながら向けた。
背伸びをしてもやっぱり届かなかった。
少しでも雨をしのいで欲しい。
「いや、良いよ!そんなことしたらお嬢ちゃんが風邪ひいちゃうよ!」
そう言いながらおじさんは傘を受け取らなかった。
「大丈夫だよ。わたしはもうこれ以上寒く感じないから」
「⋯本当に良いのかい?」
わたしが頷くとおじさんはゆっくり手を伸ばして私の傘を取った。
「ありがとう、お嬢ちゃん」
そう言われてわたしの顔には自然と笑みが浮かんだ。
わたしが笑顔を見せるとおじさんも少し黄色い歯を出して笑った。
そうしているとバスが来た音がした。
「あ!バス来た!」
来たバスは全身黒塗りのバスだった。
珍しいなと思っていると小さな女の子はそのバスに乗り込んでいった。
女の子が乗り込んだ瞬間バスの扉が閉まりバスは走り出してしまった。
「⋯見たことのないバスだったなぁ」
ここら辺に黒塗りのバスなんてあったかな?
しばらく考え込んでいたが、次に普通のバスが来たので考えるのをやめてそのバスに乗り込んだ。
そういえば何でこんな時間に女の子一人だったんだろう?
翌日、いつもと同じ時間に起きて、朝食を作って、椅子に座ってテレビを付けた。ここまでは今までと同じだった。
『昨日、横断歩道を渡っていた女の子が轢き逃げされました。現在、警察官が監視カメラなどで犯人の行方を追っていますが、現状は掴めておりません。
亡くなった女の子は⋯』
そうニュースキャスターが言うと画面に女の子の顔が映し出された。
昨日あったあの女の子だった。
「嘘⋯だろ」
あんなに優しい子が?轢き逃げされた?
じゃあ、昨日会ったのは?
私はしばらく呆然とするしかなかった。
そうしている間にも時間は止まってくれない、気がつくと出社時間が近づいていた。
私は急いで朝食を終え、歯を磨いて、着替えて、鞄を取って、玄関に行って靴を履いていると傘立てが目に止まった。
そこには昨日あの子から貰ったビニール傘があった。
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