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 女の子たちの噂が、少しずつ薄れているような気がしました。  私たちの心は蝶々のように軽く、いつも閃いていて、なかなか一つところに留まりません。それがときに美しく、ときに惨いように見えると聞いたことがあります。  そうは言われても、移ろうことは止められません。  それと同じように、留まり続けることも致し方ありません。  私はいまだずっと、この中庭で『彼』を希っておりました。気持ちが薄まるどころか、『彼』に募る想いは写真を見るたびに重なっていくようです。自分でも、なぜこんなにも惹かれるのか分かりません。  あまりに『彼』の笑顔が綺麗だからでしょうか。  この微笑みを誰に向けているのか分からないけれども、きっと、私にもこの笑顔を見せてくれるのではないかと思ってやまないのです。  旧校舎の授業を終え中庭に向かうと、いつものベンチに一人の男子学生が座っていました。  この間の老先生の影のときのように、私は一瞬驚いてしまいましたが、『彼』ではないことはすぐに分かりました。  彼よりも髪が短く、身体つきがしっかりとしているようです。  体育会系の部活動に入っているのではないかと思わせますが、意外にも、その男の子は手元に本を開き、熟読しているようでした。  あまりに没頭している様子に、私はそっと退去しようと思いましたが、彼の方が先に顔を上げてしまいました。  そういう勘が強いのでしょうか、パッと真っ直ぐ私の方を見るのです。  そうして、ここ?と言うようにベンチを指します。私はおそるおそると頷きました。  すると、彼はにこりと笑って空いている方を手で指しました。 「ごめん、君の指定席だった?」  少しの距離を置いて腰かけると、彼は声を掛けました。  私は頷きかけましたが、彼の熟読っぷりにもしかしたらと思い直します。 「お互いさまでしたか」 「俺はここ数日の間だから、新参者かもな。  まだ居ても良ければ、今読んでる話が終わるまでいいかな?」 「もちろん」  私が頷くと、彼はありがとうと白い歯を見せて笑い、再び本へ目を落としました。  彼の手に収まると、文庫本はとても小さく見えます。私が読んでいる本とまるで大きさが違うように思えました。  彼の肩に落ちるエメラルドの木漏れ日も、私の手に落ちる欠片よりずっと小さく見えます。
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