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いつもの明るく静かなエメラルドの中庭で、紺麻のサマースーツを見つけたとき、私はどこか予感めいたものを感じていました。
「ごきげんよう」
ベンチに座る私に気付き、老先生は日差しを避けるためのハンチングのつばを軽く摘まみ会釈をくれます。
「隣をよろしいですか」と丁寧に聞いてくださるので、私はもちろんと頷き、少し端に避けました。
「今日はもう少し、暑くなりそうですね」
「そうですね。 水分はちゃんと摂っていますか?」
杖を傍らに掛けながら、老先生は優しく言って笑います。
そうして、私の持っていたフィルムタブレットに気付かれました。
「何かを見ていらしたのですね。 動画ですか?」
「いいえ。 写真です。 この人を探していまして…」
私は相変わらずカラーチェンジを試していた『彼』の写真を、老先生に渡しました。
老先生はふむ、と頷きながら、やはり首を傾げます。
「ここの学生なのですね。 私の授業では見かけない顔ですが…」
「髪の色を変えてるんです、ほんとうはこの色で」
そう言って、私は手を伸ばして『彼』の髪の色をもとに戻します。
すると、老先生は少し間を置いて、じんわりと驚くように目を開きました。私は、その様子をずっと見つめていました。
「これは、……… 私です、ね…
これをどこで…?」
まじまじと、老先生は私を見つめました。
「友だちから、春ごろにもらって、それからずっと『彼』を探してて…」
そこで、私の声は途切れてしまいました。
なぜだか、声を出すのが辛くなってしまいました。
胸が絞れるように痛んで、喉がカラカラと震えてしまいました。
ぼろぼろと、涙が止まらないのです。
「ずっと、…… 探していたのです…」
やっと会えた、……… のに。
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