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透明なフィルムタブレットの中で、『彼』は穏やかに笑っています。
エメラルド色の光が薄いフィルムに零れ落ちる中で、『彼』は私の方へと微笑んでいます。
初めてこの静止画を見たとき、吸い込まれそうなほど透明な黒い瞳から、目を離せませんでした。
学校から配布された最新型のタブレットの画素数は、眼鏡人の私の目よりもずっと鮮明に画像を処理してくれます。
だからでしょうか、『彼』の黒い目の透明度が水晶のように深く美しいのです。
私は何度も写真を眺め、ほう、とため息を吐いてしまいます。
とくに、この旧校舎のイングリッシュガーデンの中、エメラルドの木漏れ日が降る木陰のベンチに座り『彼』の写真を眺めているときは、いっそう深く感嘆してしまうのです。
この静止画は、先日の授業中に仲の良い友だちから送られてきました。
新校舎の授業中、快適な温度調整された教室でうつらうつらと船を漕ぎそうだった私のタブレットに、するりと一件の通知が差し込まれたのです。
差出人は隣の友だち。
ちらりと彼女を見ると、ニコニコと笑いながら白い指先でタブレットを指しています。
私は、教壇の先生を窺いながら、そっと指先で彼女からの通知を開きました。
そこに、『彼』がいました。
瞳と同じ黒く艶やかな髪に、柔らかな頬の輪郭が、彼の人格をそのまま映しているように見えました。
ゆるりと弧を描く目元が、こちらを見つめています。
私は、スコンと呆れるほど見事に、『彼』に落っこちてしまったのです。
『彼』のことなど、その声も喋り方もまったく知らないのに、この人はとても柔らかで暖かい人なのだと確信してしまうほどに。
そうして、なぜか、この『彼』から白いハンカチを渡される光景が思い浮かんだのです。
写真の『彼』は、この学校の男子学生の制服を着ています。
襟に挿している校章の縁が青い帯をしているので、私と同じ学年であることが分かりました。
そのときの私の胸の鼓動といったら。
もしかしたら、この『彼』も今、男子クラスで授業を受けているのかもしれない、という考えは、私の心に軽やかに羽をくださり、『彼』の下まで飛んでいけそうな気持ちでした。
私は友だちのメッセージに「ありがとう、とてもかっこいい」と返しました。
すると、すぐに彼女から返信が来ました。
『男子には内緒だよ。
いま、女子の中で、この子を探すのが流行っているの』
どういうことだろう、と私が迷っていると、続きのメッセージが飛んできました。
しかし、それを開く前に、私はなにかを察した先生に名まえを呼ばれてしまいました。
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