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自分の評価。
僕はそれが気になって仕方のない人間だ。特に趣味の写真にはそれが顕著に表れている。
自分の写真は好きだ。僕にしか撮れない唯一無二の代物。それはかけがえのない宝物で、何にも代えがたい価値を有している。
だからこそ、この写真は誰かに見て貰って評価されるべきだ。そう自負しているのに、世間の目には留まらない。僕の撮った写真には、魅力の欠片もないのだろう。そう悲観しては、被写体の魅力をどう引き出して、それをどう伝えるかを必死に思案する。それが結局、彼女の言う『自分の評価に繋がることしか考えていない』という言葉に繋がってしまうけど。
僕は、ありのままのその人を撮りたいはずなのにな。
「……分かる気がするなぁ」
間を置いて、僕はぽつりと答えた。
僕は『評価』という魔物に憑りつかれている。自分がこの手で撮った写真を誰かに見てもらいたい。努力を認めてもらいたい。そんな承認欲求に駆られてシャッターを切ることだってある。
多くの人に見て貰えなければ、僕の存在はどうやって証明すればいいのだろう。僕にはそれが分からない。僕の写真が認められなければ、被写体の存在も空虚なものになってしまう気がして、たまらなく怖い。
僕は、常に評価という足枷によって自由を奪われている。
「僕さ、あんまり人に写真を見てもらうことがないんだ。結構コンテストとかにも出してるし、SNSにもあげてる。でも、周りからほとんど反応されないんだ。次第にさ、写真を撮ることの意味が分からなくなっちゃった。……僕はただ、好きで写真を撮っていただけなのに、いつの間にか評価されるために写真を撮るようになってた」
誰にも吐けなかった心の黒い部分を、会ったばかりの少女にぶつけてしまう。この言葉も、彼女の写真のように燃えて無くなってしまえばいいのに。写真が嫌いな彼女なら、写真好きの僕が抱く感情ごと消し去ってくれるような気がした。
「……ごめん、突然こんなこと話して。今のは忘れて」
僕はインスタントカメラから先程現像された写真を手に、曖昧に微笑んだ。彼女に目線を合わせるようにしゃがみこみ、その写真を差し出す。
「これ、君にあげる。映っているのは君だから、気に食わなければ燃やしてもいいよ。押し付けるようでごめんね。それじゃ」
彼女は不思議そうな顔をしたものの、写真を受け取った。
それを確認して、僕は逃げるように学校を後にした。
写真を誰かにあげたのは久しぶりだった。ただの押し付けだし、なんなら燃やしてくれて構わないと言ったけれど、僕の写真が誰かの目に映ったことだけが嬉しかった。
彼女もいつかは、写真が好きになるといいな。
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