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「誰か一人に見てもらうだけじゃダメなのかしら?案外、身近にあなたの好きな写真を見てくれる人はいるものよ」
「……そう、かな」
彼女の手に集まった写真を見て、僕は困ったように笑う。
「大事なのは、たった一人でもあなたの作品を認めてくれる人がいたら、その人のことを大切に想うことなんじゃないかしら。なにも大勢の人に評価されなくてもいいじゃない。……あくまで私の意見だけどね」
僕とは異なる価値観だし、僕の望みとはかけ離れた意見だけれど、妙に納得がいくのは何故だろう。有名にならなくても、注目を浴びなくても、純粋に僕の作品を見てくれるたった一人を大切にすればいい。
……そのたった一人がようやくできたと、たった今知ったからなのか。
訳もわからず、目の奥が熱くなった。
「あなたの作品を好きな人はすぐ傍に居るわ。……もしも信じられないならば、今すぐそのカメラで私を撮って。そしてその写真を私が燃やさずに大切にすると言えば、嫌でも信じてくれるでしょう?」
「あはは……君もなかなか強引だね」
「私、こう見えて我儘なの」
「意外だったよ」
クールな見た目からは想像できない強引な物言いに苦笑しながら、僕はカメラを構える。
この写真で納得しなかったら――彼女を満足させることができなかったら……僕は、カメラを手放そうと思う。一瞬を切り取る趣味はこれで終わりだ。
「不思議ね。久世くんの前なら、自然と笑えるような気がするわ」
彼女はそう言って、髪を靡かせた。
彼女の一番の瞬間を、この手で撮ってみたくなった。評価に憑りつかれた曖昧な僕が、本当の彼女を撮影することができるのか。二度とない彼女の姿を残せるのか。
さぁ、運命の写真を。
ぱしゃり。
黄昏の中で、小さなシャッター音が鳴り響いた。
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