あなたに気づいてほしかった

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そう、私はずっと原先生に気がついて欲しかった。 私の背を優しく撫でながら、原先生の肩が嗚咽で震える。それは生徒である私への同情よりも、恋人に裏切られた悲しみのものであっても、嬉しかった。満足だった。 彼に1度も殴られたことがないであろう綺麗な頬に、真珠のような涙がつたう。 ねぇ先生、山神先生はいつも私を「あんなふう」に抱くの。制服は全部脱いじゃだめなの。首を締めたり、お腹を殴ったりするの。そうすると、興奮するんだって、私じゃないと、ダメなんだって。山神先生の濁った欲望を受け止められるのは、他の誰でもない私なんだよ、原先生――。 ごめんね、ごめんね、と謝り続ける先生の声を聞く。廊下に面した窓からは春の光が射し込んでいる。2人の結婚がどうか取りやめになりますように、と。目を閉じてそっと、願った。
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