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早朝の校内は空気がいつもよりも冷たかった。グラウンドから聞こえてくる朝練の声を聞きながら、職員室の前に立つ。
大丈夫、誰もいない。左右を見渡してから、いつの間にかひそめていた息を吐く。
「棚橋さん」
原先生に声をかけられたのは、その時だった。
反射的に、両手を背後に隠す。いつの間にか背後に立っていた原先生は険しい顔をしていた。
「あの、その、たまたま、早く来て。進路希望、出すの忘れてて……」
焦るな、慌てるな、そう思えば思うほど、早口になる。
「……見せて」
強い口調で、言われて腕を掴まれる。揉み合いになると、背後に隠したクリアファイルが床に落ちて、中に入れていた写真が散らばった。
原先生はすかさず床にしゃがみこみ、床に落ちていた写真を拾った。
「棚橋さんの様子が変だなってあの後ずっと考えてて……、やっぱり、棚橋さん、だったんだね……」
原先生の声に嗚咽が混じる。
「自分で貼るなんて、馬鹿だよ、女の子なのにそんなこと、ダメだよ……そうしないと助けを求められないまでに追い詰められてたのんて……!」
気づいてあげられなくてごめんねぇ、と原先生が泣き崩れる。原先生が掴んでぐしゃぐしゃになった写真が手の中で潰れる。山神先生が私の首を締めている写真。山神先生のものを口に入れている写真。私と山神先生の行為の最中。動画を切り出したものもあって画素は粗い。いずれもはっきりと顔は写っていないけれど、見る人が見れば、誰だか分かってしまう写真。そんな写真を、選んだ。他の誰でもない原先生に見てもらうために。
「相手は、……山神先生、だったんだね……」
ぽろぽろと涙を流しながら、原先生が立ち上がる。てっきり頬を張られるかと思ったのに、原先生は私をきつく抱きすくめた。
「ごめんね……ごめんね、気づいてあげられなくて。辛かった、でしょう……っ、あんな写真……、棚橋さん、おんな、のこ、なのに、あんなっ」
「先生に、ずっと……、言いたくて、言えなくて……っ、気がついて、ほしくて……」
涙がこぼれた。嗚咽で途切れる私の声を、原先生は遮ることなく聞き続けた。背中をさするその手のひらの温かさが優しくて、目を瞑る。
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