あなたに気づいてほしかった

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一緒に試合に出ている皆は相手側のバスケットゴールの下でボールを奪い合っていた。腹ぺこで殺気立った猫たちが、一匹の魚を奪い合っているみたいだ。ひとつのボールに群がる様は少し滑稽でもある一方で、ボールがこちらに転がってきたなら頬に引っかき傷のひとつやふたつ、容赦なく残されそうで、蛍光イエローのビブスを今すぐ脱いでこの場から逃げ出したくもなる。 試合に臨むクラスメイトの後ろ姿は、いつもよりも動きが激しい。クラス対抗の球技大会が来週に迫っているせいだ。球技大会は学年が変わる前の最後の学校行事とあって、相澤さんを始めとしたクラスの「強い」子たちのやる気は尋常じゃない。 「みんなぁ! このクラスで最高の思い出作ろうよ!」と相澤さんが朝のホームルームの時間に呼びかけたのは二週間前のことだ。予定調和のように、いいじゃん、やろやろーという声が教室の真ん中からあがると、担任の原先生はクラスのみんなが仲が良いのが嬉しくてたまらない、といった表情で「やだー、みんな青春って感じ! 先生も練習参加しちゃおっかな」と言って拍手をした。それが決定打となり、教室の中には#青春や、#ONE TEAMなんていう空気がものすごい勢いでタグ付けされていき、あれよあれよという間に 「朝のホームルーム前と昼休みは、クラス全員参加で球技大会の自主練を行うこと」という判決が下されてしまった。 私は揺れるカーテンの隙間からぼんやりと窓の外を眺めていた。冗談じゃないな、と思いながら。飛行機雲を描いた機体は、青い空のとごにも見当たらなかった。
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