あなたに気づいてほしかった

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ONE TEAMという免罪符を手に入れた相澤さんは容赦がない。今もまた「棚橋ぃ、突っ立ってないで動けよ!」と、コートの端から端まで響き渡る鋭い声を私にぶつける。一介のモブに過ぎない私は、クラスの頂点に君臨する相澤さんに立ち向かう術をもたない。だから大人しく青春を謳歌する。一生懸命バスケをする。なのに相澤さんには私がやる気がなくて、愚図でノロマで空気も読めなくて有り得ない、ように映るらしい。 この試合が早く終わりますように。 祈るように時計を見る。 その時得点板をめくる二人のクラスメイトがふ、と視界に入って、身体がサッと冷たくなる。笑いながら黄色い得点札をめくる彼女たちが私をそっと指さしていた、かもしれない。「見た? あれ」「棚橋、また相澤さんに怒鳴られてる」そんなことを話していた、かもしれない。そう思うと息がさっきよりもしづらくなる。 コートの中は見通しがよくて、身体を隠してくれるものは何もない。心許なくて、立っているだけで膝が震えそうになる。早く終われ早く終われ。だからまた、祈るような気持ちでもう一度、時計を見る。 空気にハサミを入れるように、試合終了のホイッスルが鳴った。だ、だ、だ、と振動していた体育館の床が平坦さを取り戻していく。「ありがとうございましたぁ」と「片付けー」といった緩慢なざわめきが広がると、久しぶりに水に戻された魚のように、ようやく呼吸を取り戻すことができたような気がした。深く息を吐く。 「あんたさぁ、ふざけてんの?」
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