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ヤクザとなど付き合わなくても、外の世界はもっと自由なのだと遥が思うのが怖かったんだ………。
「その顔は……ちゃんと分かってる顔ですね」
「ああ…分かってる。分かってるんだ…」
遥とちゃんと話さなければいけない。
俺がこれ以上遥の人生を縛るわけにはいかない。
「遥、ただいま」
「おかえり、なさい」
誠吾が帰宅すると、遥は嬉しそうな顔をしてベッドから降りて誠吾に抱き着いた。
「体調は変わりないか?」
「元気だから、たいくつ、です」
遥は困ったように笑って、誠吾の脱いだスーツをハンガーにかけて皺を伸ばす。
少しでも何か誠吾のためにしたいのに、この程度のことしかやらせてもらえず残念だ。
「明日また病院で検査だったな…」
「はい。結果、良くなってたら、また、家の、仕事をしても、いいですか?」
小首を傾げてお願いをする遥は、いじらしくて可愛い。
こんな可愛い遥を、ずっと手元に置いて誰の目にも触れされたくない……。
「家事はマツと相談しながらゆっくり始めればいいが………。なあ、学校のことなんだが」
「学校は、辞めます」
遥はきっぱりと退学すると言う。
その言葉にまた甘えそうになりながらも、誠吾はゆっくりと遥に尋ねた。
「遥は学校を辞めたいのか?もう、行きたくはないのか?」
「だって……。僕が、学校、行ったせいで…」
「そういうんじゃなくて。俺は遥の気持ちが聞きたいんだ」
遥は誠吾の顔をじっと見つめて、ぽろりと涙を零した。
「どうして、そんなこと、言うんですか?僕の、気持ち、なんて、どうでも……」
「どうでもよくねぇよ。遥は……いつも自分より他人を優先して……したいことも欲しいものも言わないで…」
誠吾の声も震えていて、泣きそうだった。
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