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山田は忘れようと思っても忘れられない出来事を思い出して、顔を赤らめた。
遥があの時、必死で口淫してくれたことは誰にも言っていない。
遥も言いたくないだろうし、言ったら自分は黒川には居られないだろう。
「遥、ここに居たのか」
「誠吾、さん」
「若頭………」
山田が黒川に来てから、誠吾と直接話したことは数える程しかない。
若頭として獅子のようなオーラを纏う誠吾には、なかなか話しかけづらかった。
腕っぷしが強く男っぷりもいい誠吾は山田の憧れだ。
「なかなか部屋に帰って来ないから迎えに来たぞ」
「ごめんなさい。もう、戻ります、ね」
遥が誠吾を見上げて笑うと、誠吾はよしよしと遥の頭を撫でる。それはもう、可愛くて堪らないと言った様子で…。
遥と誠吾が一緒に居るところを初めて見る山田には、遥にデレデレしている誠吾の姿は衝撃的だった。
「お、山田。また、学校では遥のことをよろしく頼むな」
「あ………はい。全力で努めさせてもらいます」
誠吾は満足そうに頷くと、遥の腰に手を回してその場を去っていった。
「本当に……尾崎に惚れてんだな…」
誠吾と遥が付き合っているのがどうも想像出来なかった山田だったが、二人の様子を目の前で見て初めて納得出来た。
口淫のことは一生黙っていよう……。
不可抗力だったとはいえ、バレたら殺されるかもしれないな………。
山田は改めて決意した。
遥が言わない限り、一生秘密にしようと。
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