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東は助手席の遥をチラリと見た。
何が起こっているのか分からず、不安そうな表情で前方をじっと見つめている。
誰が追ってきているのか分からないが……姐さんが居るのに無茶は出来ないな……。
車を走らせながら、東が思案していると追い越し車線から来た別の車がピタリと並走し始めたことに気付く。
不味いな……。
「姐さん、ちょっと横道に入りますんで」
「は、はい」
東がハンドルを切って横道に逸れると、併走していた車を巻くことは出来ても後方のバンはピタリとくっ付いて来る。
「姐さん……ちょっと若頭に電話を掛けてもらえますか?」
遥は言われたとおり、鞄から携帯を取り出して誠吾に電話を掛けた。
会合中の筈だが、数回のコール音の後すぐに誠吾が電話に出る。
『もしもし。遥、どうした?リハビリの時間じゃないのか?』
「若頭、東です。ちょっと何者かに尾けられてまして……。今、巻こうとしてるんですがなかなかしつこくて…」
『今どこだ?』
「黒川の家に戻ってる途中です」
数秒の沈黙の後、誠吾が静かな声で東に指示を出した。
『そのまま家に向かえ。親父に言ってお客人には家から何人か迎えに出すから』
「了解しました」
通話が終了すると、東は遥を不安にさせないよう微笑みながら話し掛けた。
「このまま家に戻りますね。もう少しでうちのシマに入りますから、あと少しだけ急がせて下さい」
「誰が、追いかけてきて、いるのですか」
「分かりません。とりあえず今は家に戻りましょう」
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