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東からの電話を切った誠吾は、すぐに家に居る正蔵に連絡を入れた。
親父がいるから多分大丈夫だろうが…。
遥の無事をこの目で確認したい……。
今日の会合は、隣接する組同士のそれぞれのシマの境界線の確認と、互いに干渉し合わないという協定の確認で、黒川の代表として抜けるわけにはいかない。
険しい顔のまま席に戻ると、二階堂組の黒崎が声を掛けてきた。
「黒川さん、お顔の色が悪いようだが。お宅で何かありました?」
「いや……。家にでっかいゴキブリが出たって連絡だけでしたよ」
誠吾は弱みを見せないよう、ゆったりと椅子に腰掛けて余裕の笑みを見せる。
黒崎は拍子抜けしたような顔を一瞬見せたが、またいつもの無表情にすぐ戻った。
「ゴキブリは……困りましたね。心配ですね」
「いや、すぐやっつけると思うんで。お気遣いありがとうございます」
一見和やかに話しているようだが、二人の間にはピリピリとした空気が流れている。
その場の誰もがそれを感じ取っていた。
誠吾の後ろで控える山根は、その場に居る誰よりも、一番敏感に誠吾の怒りを感じ取っている。
黒崎は…シロじゃないですね。
ボスも分かっているみたいですが……。
「すみませんが、私はこの後別件の用がありますので、そろそろお開きにしていただいてもよろしいですか?」
ピリピリした空気の中、藤代組の組長代理で参加していた佐山が口を開いた。
その場に居た全員が、佐山の一言にホッとする。
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