2796人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの人、ボスに並々ならぬ執着心がありますからね。尾崎君を押さえればボスを何とかできると思っているのでしょう…」
「正々堂々と俺に向かってくればいいのによ」
迎えの車の中で誠吾はイラつきを抑えきれなかった。
黒崎の顔を思い出しては腹が立つ。
「佐山さんが止めてくれなければ、ボスが黒崎を殴るかと思いましたよ」
「あそこで殴ったら不味いことくらい、俺にも分かるっての。遥にちょっかい出されんのが一番腹立つんだよ」
だから悟は執拗に遥を狙うのだろう。
遥が誠吾と付き合うようになり、弱点の無かった誠吾に弱みができてしまった。
守るものが出来て強くなった面もあるが、それ以上にリスクも大きい。
「尾崎君の前では、そんな風にイライラしないで下さいよ」
「ああ。遥だって訳わかんなくて不安だろうからな………」
遥が不安で泣いていなければいいが……。
誠吾はそう思いながら帰宅したのだが……。
「誠吾さん、おかえりなさい」
玄関に出迎えに来てくれた遥は、にこにこしておりいつも通りだ。
家の中は甘い香りでいっぱいで、聞けば焼き菓子を焼いているのだと言う。
「リハビリ、なくなって、時間が、できたから……。マドレーヌ、もう焼けますよ」
「お、おう。じゃあ、焼けたら貰うよ」
「楽しみに、しててください、ね」
遥はパタパタと台所に戻っていった。
不安そうな様子も全く無い。
最初のコメントを投稿しよう!