第8夜

4/20
前へ
/232ページ
次へ
「外で何があろうが、家に帰れば姐さんが美味い飯を用意して笑顔で待っていてくれる。それがどれほど有難いことか……」 「そうです……よね」 台所の前に立つ青山と山田に気付いた遥が「おかえりなさい」と、笑顔で頭を下げた。 「姐さん、今日はハンバーグですか。久しぶりですね」 「皆さんの、リクエストが、あったので」 にこにこ笑う遥の周りは、皆笑顔になっていた。ただ一人、マツだけは仏頂面をしている。 「混ぜて焼いたら分からなくなるんだから、もっと色々混ぜたらいいのに……」 「マツさん!姐さんに変なことを吹き込まないで下さい!」 マツはぶつぶつ文句を言いながらも、遥の傍で食事作りをサポートしていた。 遥も、マツに話しかけながら楽しそうに料理をしている。 家全体が、遥の放つほわほわとした温かいオーラに包まれているようだ。 皆思うのだ。 この心地よい空間を生み出す、遥のことを大切にしなければならないと……。 「遥、今日のハンバーグ、美味かったぞ」 夕食は好評で、余りのハンバーグをじゃんけんで争奪するなど、今日も賑やかな食卓だった。 悟が近くまで迫ってきているのに、組員達にそんなプレッシャーを感じさせないのは遥のおかげだろう。 「皆さん、大変なお仕事、だから…。少しでも、役に立ちたい、です」 「ああ。いつもありがとな」 遥は嬉しそうに笑うと、誠吾のシャツにアイロンをかけ始めた。 クリーニングに出せば簡単なのに、誠吾の着るものは自分がアイロンをかけたいと譲らない。 誠吾は、そんな遥の少し頑固なところも愛しいと思う。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2797人が本棚に入れています
本棚に追加