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「冴子さん、どさくさに紛れてボスを狙ってくるかもしれません。くれぐれもあの方と二人きりにならないで下さいね」
「ああ。遥に変な心配かけたくないから気をつけるわ」
しかし、悟の動きがどうも読めない。
冴子の店に来たとなると、黒川のシマを堂々と歩いているということだ。
舐めた真似しやがって……誠吾は拳をぎゅっと握りしめた。
遥が朝食の下ごしらえを終えると、台所に冴子が顔を出した。
「ごめんなさい。お水を一杯いただける?」
「あ……はい。お水で、大丈夫ですか?お茶を、淹れましょう、か?」
遥のゆっくりとした話し方に、冴子は眉を顰めた。
「遥さん、喋り方変じゃない?それ、どうかしたの?」
「あの、舌を怪我して、後遺症で、まだあまり、上手には、話せないので……」
「あら……。そうなのね。若様は優しいから、言葉に障害のある遥さんを放り出したりはできないのね……」
冴子の言葉が遥の胸に刺さる。
確かに誠吾は、遥の腰と舌の傷跡について随分気にしている。
この傷跡が誠吾さんを縛っているんだろうか………。
「ちょっと羨ましいわ。私にもそういうハンデがあれば若様に大事にしてもらえたのかしら……」
遥は返事が出来なかった。
ショックで立ち竦む遥を気にとめることもなく、冴子は冷蔵庫から勝手に水のペットボトルを持ち出して台所から出て行った。
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