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僕も……部屋に戻らなくちゃ…。
遥は台所からふらふらと出たところで、水を飲みに来た山田と出くわした。
「尾崎……?どうした?何泣いてるんだ?」
「山田さん……泣いてなんか、ないですよ」
遥が自分の頬を触ると、涙が手に触れた。
自分でも気付かないうちに泣いていたのだと知って、遥はごしごしと目を擦った。
「そんなに手で擦ったら目に悪いだろ。ほら、タオル貸してやるから……」
「ありがとう、ございます……」
山田が首から下げていたタオルを遥に渡すと、遥はそれを受け取って目元を拭った。
「…………大丈夫か?今、見慣れない女が台所から出ていったけど……。何かされたのか?」
「何も、されてない、です……」
こんな時でも、やはり言葉はゆっくりしか話せない。
黒川組の皆が、自分の変な話し方を当たり前のように受け入れてくれていたので、あまり気にしていなかったが……。
「山田さん、僕の話し方、やっぱり、変です……よね」
「別に変じゃねぇよ。ちゃんと喋れてるし……ゆっくりだけど、それもまた味があるって言うか……」
山田の言葉に、遥は泣きながらもくしゃりと笑顔を見せた。
「ありがとう、ございます。山田さん、優しいです」
「あの女に変だって言われたのか?」
遥はふるふると首を振った。
冴子に言われたことは間違ってはいないのだから。勝手に傷付いて……泣いて山田に心配をかけるなど、そんなことをしてはいけない。
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