第9夜

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「もう、寝ます。タオル、ありがとう、ございました」 「尾崎……………」 遥はぺこりと頭を下げると、逃げるように山田の前から立ち去った。 立ち去る遥の背中を心配そうに見つめる山田を、冴子がそっと観察していたが山田はそれに気付かない。 「あの子には、年相応のお似合いの男の子が居るじゃない……」 冴子が小さく呟いたが、その呟きは誰にも聞かれることなく薄暗い廊下に消えていった。 遥が部屋に戻ると、誠吾はまだ戻って来て居なかった。 のろのろと寝巻きに着替えると、遥ははベッドに横になる。 冴子に言われたことが頭の中でぐるぐると回っていた。 誠吾は同情と罪悪感から自分と一緒に居てくれるのだろうか。 そんな筈ない……誠吾から向けられる愛情は、同情なんかじゃないと思いたい。 僕は誠吾さんの子どもを産むことも出来ない……。 誠吾さんは女の人とだって付き合えるのに、本当に僕でいいんだろうか。 僕に傷跡が残ったから……責任感から僕を手放せないんじゃないのか。 いつもはポジティブな遥だが、つい悪い想像をして胸が苦しかった。 冴子に向けられた悪意のある一言が、じわじわと遥を苦しめる。 遥が不安に思っていることなど知らない誠吾は、正蔵の部屋から出ると、そのまま風呂に向かった。 教師の真似事だけでも疲れたのに、冴子の店の件が不可解で…。 悟が何を考えているのか全く分からない。
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