2798人が本棚に入れています
本棚に追加
アイツは俺の弱点が遥だということが分かってるくせに……。
自分の大事な店で乱暴された冴子は気の毒だと思う。
だが、怖いと言って甘えてくる冴子に対して、同情以外の感情は湧かない。
寝たこともある筈なのに、どんな気持ちで冴子を抱いていたのか全く思い出せなかった。
今は山根に禁止されてるが……俺が抱きたいのは遥だけだ。
山根がやたら冴子を警戒しているし、明日には冴子はホテルにでも移ってもらおう。
遥も余計な心配するかもしれないしな。
誠吾が風呂から上がって脱衣所で着替えていると、ガチャリとドアが開いて冴子が顔を覗かせた。
「あら……ここがお風呂なのね。若様、お風呂に入るなら誘ってくださればよかったのに……」
「何でお前と二人で風呂に入るんだよ。誘うわけないだろうが」
冴子はそのまま黙って、誠吾の着替えをじっと見つめていた。
居心地が悪くて、誠吾は着替えを済ますとすぐに脱衣所を出ようとしたのだが、ドアの前に立つ冴子が邪魔をする。
「昔は一緒に入ったこともあるのに……。相変わらず若様の体は逞しくて素敵だわ」
「冴子…早く退け」
誠吾が低い声で促すと、冴子は肩を竦めてドアの前から離れた。
「早く寝ろよ」
一言だけ声を掛けると、誠吾はさっさと部屋に戻って行った。
冴子はふっと笑うと、与えられた客間にゆっくりと戻っていく。その表情は、とても楽しそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!