第9夜

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アイツは俺の弱点が遥だということが分かってるくせに……。 自分の大事な店で乱暴された冴子は気の毒だと思う。 だが、怖いと言って甘えてくる冴子に対して、同情以外の感情は湧かない。 寝たこともある筈なのに、どんな気持ちで冴子を抱いていたのか全く思い出せなかった。 今は山根に禁止されてるが……俺が抱きたいのは遥だけだ。 山根がやたら冴子を警戒しているし、明日には冴子はホテルにでも移ってもらおう。 遥も余計な心配するかもしれないしな。 誠吾が風呂から上がって脱衣所で着替えていると、ガチャリとドアが開いて冴子が顔を覗かせた。 「あら……ここがお風呂なのね。若様、お風呂に入るなら誘ってくださればよかったのに……」 「何でお前と二人で風呂に入るんだよ。誘うわけないだろうが」 冴子はそのまま黙って、誠吾の着替えをじっと見つめていた。 居心地が悪くて、誠吾は着替えを済ますとすぐに脱衣所を出ようとしたのだが、ドアの前に立つ冴子が邪魔をする。 「昔は一緒に入ったこともあるのに……。相変わらず若様の体は逞しくて素敵だわ」 「冴子…早く退け」 誠吾が低い声で促すと、冴子は肩を竦めてドアの前から離れた。 「早く寝ろよ」 一言だけ声を掛けると、誠吾はさっさと部屋に戻って行った。 冴子はふっと笑うと、与えられた客間にゆっくりと戻っていく。その表情は、とても楽しそうだった。
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