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誠吾が部屋に戻ると、遥は既に横になって眠っているようだった。
いつもなら誠吾が帰ってくるまで起きて待っているのだが、今日は久しぶりの登校で疲れたのかもしれない。
遥を起こさないように誠吾はベッドに入ると、眠る遥を後ろからそっと抱き締めて柔らかな髪に鼻を埋めた。
誠吾に抱き締められた遥は、実は眠ってはいなかった。
泣いて赤くなった目元を見られるのが嫌で、寝たふりをしていたのだ。
優しく自分を抱き締める誠吾の温もりに、不安な気持ちがゆっくりと消えていく。
僕はちゃんと愛されている。
誠吾さんの愛情を疑うなんて……どうかしてた。
遥は振り返って誠吾の頬にキスをした。
「………悪い。起こしちまったか?」
「大丈夫です。遅くまで、お疲れ様でした」
よいしょと体の向きを変えると、遥は誠吾の胸に頬を寄せた。
誠吾の心臓の鼓動が、とくとくと響いて安心出来る。
「今日は、黒川先生、素敵でした」
「なんとかボロを出さずに済んだけど……やっぱり柄じゃねぇわ。早いとこ悟とケリをつけないとな」
「冴子さんの、お店も、あの人のせい、ですか?」
突然冴子を家に連れてきて、遥もやはり思うところがあったのだろう。
誠吾はよしよしと遥の頭を撫でる。
「アイツ、だいぶ近いところに居るみたいだからな。早々にケリつけるから心配すんなよ」
「はい…………」
あの人とのトラブルが解決したら、誠吾さんは先生じゃなくなるんだもんな…。
先生をしている誠吾さん、素敵だったからそれも少し残念だな……。
先程までの不安はどこへやら、誠吾の腕に抱かれて安心した遥はそんなことを思いながらゆっくりと眠りに落ちていった。
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