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普段あまり表情を変えない山根が、怒りを顕にして台所に入って来ると、遥を庇うように立って冴子に対峙する。
「この子は黒川組にとって大切な子です。貴方にこの子を馬鹿にする権利などない」
「あらやだ…。馬鹿になんてしていないわ。若様のことが心配で、つい質問しちゃっただけだもの」
冴子はそう言うと、そそくさと台所から出て行った。
悪意の塊を思い切りぶつけられて、毒気に当てられた遥はへなへなとその場に座り込む。
「大丈夫ですか?」
「は……い。大丈夫、です」
笑わなくては。
笑わないと山根に心配をかけてしまう。
そう思っても、遥は上手く笑うことができない。
「私の前で無理しなくてもいいのですよ。冴子さんのことは放っておきなさい。ボスに未練があるから、尾崎君に酷いことを言って嫌がらせをしているだけです」
「冴子さんと、誠吾さんは、以前、お付き合いされて、いたのですか?」
ずっと気になっていた。
冴子から放たれる棘のある言葉は、自分の方が誠吾に相応しいと主張しているようで…。
「何回か寝たことはあるみたいですが、お付き合いと言うと違いますね。ボスが本気で愛したのは後にも先にも、尾崎君だけですよ」
山根は遥の両肩に手を置いて、遥を優しく立ち上がらせた。
「君はもっと自信を持った方がいい。黒川組で若頭に愛されて、皆に姐さんと呼ばれるのは君だけだ。あんな女の言うことに惑わされないで、背筋を伸ばして堂々としていなさい」
山根は薄く微笑むと、遥の背中をポンと叩いた。
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