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「嫌よ。いつまた襲われるか分からないのよ?ここに居た方が安全だもの」
冴子はあっさりと移動の提案を断った。
イライラする気持ちを抑えながら、山根は淡々と冴子を説得する。
「男ばかりの世帯に、女性が一人と言うのも問題がありますし……」
「あら、女性なら家政婦のおばさんが居るじゃない。二階堂って人に、もう襲われない保証ができたら出て行くわよ」
冴子はこの家を出る気はなさそうだ。
自分が連れてきた手前、誠吾も困った顔をしている。
「そもそも、ヤクザ同士のいざこざに私は巻き込まれた被害者でしょう?山根さんも、もう少し私に優しくして欲しいわ」
「冴子…とりあえず一回部屋に戻れ。お前の行先についてはまた考えるから」
山根と冴子の言い争いを見かねた誠吾が口を挟む。
冴子は山根をじろりと睨むと、さっさと部屋に戻って行った。山根は憮然とした表情で誠吾に向き直った。
「あの人、台所で尾崎君に嫌味を言って虐めてましたよ。うちを引っ掻きまわそうとしているようで……早く追い出した方が得策だと思います」
「遥を虐めてって……遥は大丈夫なのか?」
「あの子は我慢強いですけど……ずっと虐められたら可哀想です」
冴子を早く追い出したいが、本人も言うように黒川組と悟との争いに冴子は巻き込まれた形だ。
身の安全は保証してやらねばならない。
「悟の奴、やっかいな相手に手を出してくれたなぁ……」
「これが狙いだったとしたら、相当頭の切れる奴ですね………」
冴子という悩みの種を家に招き入れたことにより、家が不穏な空気に包まれていく予感がする。
誠吾と山根は大きな溜め息をついた。
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